潮騒と姉 4(終)

 砂浜でちょっとした建物を作ったり、持ってきた水鉄砲で遊んだり、海の家で買った料理を二人で食べてたり……そんな風にしていると陽が沈む時間になる。辺り一帯が赤紫色の光に包まれる中、俺と愛理姉は疲れを取るようにテントの前に座って海を眺めていた。聞こえてくる波の音が心地よい。


「早かったね、将君……でも、持ってきた物は一通り使って遊べたかな?」

「ここに着いてからが本当にあっという間に思えるな」

「えへへ、お姉ちゃんは大満足でした! 水中でのキスもロマンチックだったなぁ」

「人前でキスしようって言った時はびっくりしたけど……」

「あの後ちょっとおかしくなって元に戻るまで時間かかっちゃったね……」


 愛理姉はこてん、とこちらの肩に首を預けて満足そうな声で唸った。方向的に夕日は見えないけれど空の色が変わっていくのを見るだけでもノスタルジー溢れるような不思議な気持ちになる。本当に異世界にでも来たかのような光景だった。


「愛理姉、明日はどうする?」

「近くにボートの貸し出しがあったからそこ行かない?」

「いいね、それにしよう」

「あと、この辺に綺麗な洞窟があるんだって。写真撮ろ?」


 日没時もあって砂浜は人の数が減り、俺たちのようなカップルがたまに座っているくらいの閑散とした状況になっていた。今日の思い出や明日への期待をいろいろ喋っているうちに暗くなってきたので自分たちもテントを片付け、シャワーを浴びて元の服に着替えてからホテルの部屋に戻った。

 使った水着を洗ってから部屋に干し、レストランが夕食の時間になるまでしばらく待つ。愛理姉がドライヤーで髪を乾かしていると彼女のいい香りがこちらまで来た。


「ここの料理、特産の豚ステーキとお刺身が有名なんだって。楽しみだね!」

「本当に愛理姉が楽しそうで良かった……精一杯羽伸ばしてほしかったんだ」

「羽伸ばすってくらい普段抑えてることはないけどね。でもありがと……!」


 ごおお、と温風を作る音がしている中、ふと愛理姉があることを思い出したのかドライヤーを置いてバッグ片手にどこかへ行く。そうして俺からは見えないところで何かをし始め、しばらくしてもう一度姿を現した。


「将君、これ、持ってきてたんだった」

「え……!」


 そこに立っていたのはピンクのビキニ姿の愛理姉だった。水着を買う時に愛理姉がもう一つ買っていたもので、俺が「他の人には見せたくない」と言っていた姿。胸元が開け、姉さんの大きなおっぱいが綺麗に整えられているのを見せつけられる。

 やわらかそうで、触ったら絶対に離せなくなる……でも、手を伸ばしたくなる……


「わ……」

「え、えっと、どうかな?」

「ちょっと、こっち来て」


 ベッドで半分仰向けになっていたところへ愛理姉を呼び、その上に跨るようにして座ってもらう。そしてそのまま俺は体を起こして姉さんの大きな胸にもにゅりと顔をうずめた。形の整っている姉乳の間で呼吸をする度に変な声が出てしまう。


「あっ……愛理姉っ、大好き……」

「ええっ、ちょっと、将君っ」

「ん、好き、愛理姉好き、愛理姉は俺の物……」

「将君、そんなにしてたらおっぱいなくなっちゃうよっ……♡」


 落ち着かせようと愛理姉が両側からぱふ♡ぱふ♡と優しくしてくれる。姉さんの身体の匂いにも慣れ切ったところでようやくまともに物を考えられるようになり、二人でベッドにごろんと転がり込んで抱き合った。海ではあまり感じられなかった姉さんの身体の柔らかさやえっちな肉感が癖になる抱き心地として襲ってくる。


「甘えん坊さんだね……」

「だって、それ着てくれるって思ってなかったから」

「将君が"最高"って言ってくれたんだよ? お姉ちゃん、覚えてるからね」

「好きぃ……」

「えへへ、私も将君のことが大好きだよっ」


 薄暗い部屋の中、水着姿の愛理姉と身体が一つになるくらいにきつく手足を絡める。彼女の胸の鼓動も息遣いも、華奢な腕も、大好きの一言も全部、自分の物なのだ。


「じゃあ……お姉ちゃんと、しちゃおっか……♡」


 海の中でした時よりも、砂浜の上でした時よりも、優しくて甘い濃厚なキス……ちゅ、ぬちゅ、と音を立てて口液を交わらせてお互いの気持ちいいところを舌で刺激していく。一回する度に愛理姉への好きが育ち、心の中がふつふつと煮立っていく。

 姉弟ともに逃げられない、そんな状況でキスを続けていたらどうなるか……


「将君、大好きだよ♡」


 何も考えられなくなって、二人で、眠りに落ちる。

 愛理姉のスマホが夕食の時間を知らせるまでの、短くとも長い夢の中。




 ――船から海に投げ出され、水面を浮くようにして漂流していた。うすぼんやりした視界の中で自分は誰か素敵な女性に助けられて砂浜まで連れていかれる。


「将君、将君っ」


 聞いたことのある声がして、眠りに落ちそうになっていた意識がはっきりとした。身体を起こすとそこには下半身が魚のようになっていた「人魚」が座っていて、俺のことをじっと見ている。そしてその人は俺が大好きな姉さんだった。


「えへへ、ちゃんと起きて偉いぞ。一緒に泳げる?」

「うん。大丈夫」


 海の中へ戻った俺たちはエメラルドグリーンの海を自由自在に泳ぎ回る。息が苦しくなるようなこともなく、姉さんと二人で色とりどりの海中世界を訪れた。そうしているうちに俺の脚も姉さんと同じ魚のヒレのように変わっていて、二人で手をつなぎながら海底に作られた結婚式場のような場所を訪れる。


 目を合わせてお互いのしたいことを察し、指を絡ませながら誓いのキスをする。

 見上げれば、自分たちを祝福するように水色の柔らかな光が差し込んでいた。

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