逆らえない姉友 4(終)

 希さんが涎を垂らしまくったせいで着ている服を汚してしまった。別の服に着替えることになった希さんをソファに座って待っていると、しばらくしてからメイド姿になった彼女が戻ってくる。何故彼女に家にあれがあるのかを今更突っ込むのは野暮な話だが、その姿を見るのも随分と久しぶりだ。

 形から入るタイプなのだろう、希さんは俺の前まで来ると綺麗な姿勢で一礼する。


「戻りました、ご主人様」

「良かった、とりあえずは落ち着いたかな」

「はい。先程は、大変ご迷惑をおかけしました……」


 隣に腰掛けた希さんは目線を落としたまましょんぼりと落ち込んだ様子。いくら彼女が虐げられることに快感を覚えてしまう性格とは言え、社会人として仕事をぶっちしてしまったのは堪えたのだろう。あのタイミングで止めてしまった俺も俺だが、彼女が幼稚園に向かっていたらと思うとやはり止めてよかったと安堵する。

 本当ならば、このまま二人で一緒にいるだけでも構わない。でも彼女は何か物足りなさそうに、何かを待っているように俺のことをちらちら窺っていた。


「あのっ」

「希さん?」

「お願い、してもいいですか?」


 希さんが自分から何かを頼み込んでくるのは珍しいことでちょっと驚く。


「もちろんですよ」

「じゃあ、えっと……さっきの続きじゃないんですけど……」


 口を閉じたままんぐんぐと何か言おうとした希さんは、しばらく言葉を探すようにもごもご呟いてからもう一度俺をしっかりと見てこう言った。


「私の、先生役として……恋人同士ですること、教えてくれませんか?」

「え……?」

「その、えっと、キスとか」


 慣れない口調の彼女を見ながら頭の中でなんとなくお願いされたことを思い描いてみる。そしていくらかイメージできた後、俺は希さんと少しだけ距離を詰めた。ソファに座りながらお互い向かい合い、息を合わせるようにして小さく頷く。


「じゃあ、始めますよ」

「よろしくお願いします、先生……♡」


 まずは片手を希さんの腰の辺りへそっと伸ばす。彼女と身体の距離を縮め、上から布団をかけるように彼女の身体を優しく抱いた。希さんの手もこちらの腰にぴたりと乗ってくる。

 主導権をこちらへ明け渡し、蕩けた顔を浮かべるメイドさん。抱き心地は抜群だ。


「最初はこうやって、お互いにぎゅってするんですよ」

「お互いに、ぎゅって……」

「そう。そうやって『私はもうあなたから逃げられません』ってアピールする」

「はい……♡」


 うっとりしたような声で返事する希さん。こつんとおでこをくっつけ、お互いにドキドキしている表情を相手へ晒し合った。彼女の荒い息遣いも聞こえてくる。


「それじゃあ、次はキスのおねだり。やってみましょう」

「はい。えっと、こうですか……?」


 頬から力の抜けたメイドさんはそのまま口をぽかんと開けて口内をこちらへ見せつけてきた。既に準備ができているのか中は唾液でトロトロになっていて、今すぐにでも飛び出したいと言わんばかりに舌がぬらぬらと不機嫌そうにうごめいている。湿った吐息が顔にかかるようで、知らず知らずのうちにこちらもその気にさせられていた。


「そうそう。そのまま言葉でお願いしてごらん?」

「はい、先生……♡ 私と、キス、してくださいっ」

「口の中がもうトロトロですよ。我慢できないんですか?」

「はいっ♡ 早く、先生とキスしたくて、たまりません……♡」

「じゃあ――ちゃんとおねだりできた希さんに、ご褒美をあげますね」


 一回おでこを優しくこつんとくっつけた後、相手の腰に回していた手で引き寄せるようにして身体を密着させながら唇を重ねた。暖かく甘い蜜でいっぱいだった彼女の口から舌がとろけ出て、こちらの口の中を動きながらぴくぴくと震えた。

 希さんがこちらの腰に置いていた手にも力が入っている。もう彼女の意志では逃げることができなくなっていた。


「ん、ぁっ……♡」

「とっても上手ですよ、希さん」

「ありがとうございます、先生♡」


 彼女に先生呼びされるのがどうにもくすぐったい。逸りそうになる気持ちを抑えながら希さんの頭の後ろを優しく撫でる。子犬のように喉で鳴いた彼女は目を潤ませ、俺の耳元に口を近づけると物欲しげに囁いてきた。


「先生……使ってみたいものがあるんですけど、いいですか?」


 持ってくるように促すと希さんはもう一度だけキスを交わし、鬼灯のように赤くなった顔で別の部屋に向かって行く。そしてしばらくすると、彼女は手に首輪とリードを手にして部屋へ戻ってきた。

 それでどうしたのかは説明されなくともわかる。彼女は勿論のことだが、それをすることになるだろうこちらも緊張して身体が硬くなってしまった。


「これで……先生のものに、してください♡」


 希さんから受け取った後、その使い方を軽く確認してから彼女に後ろを向くように指示する。そして背後から首輪を回し、締め付けない程度に留めてからリードで軽く引っ張った。

 振り返った彼女が首輪からリードが伸びていることを確認し、それが俺の手に握られていることもしっかりと見る。すると、立っていられなくなったのか突然俺の方に倒れ掛かってきた。それを受け止めた俺は彼女の姿勢を低くし、床で四つん這いになるような体勢で安定させる。


「大丈夫ですか?」

「はい、すいません。でも、これで先生と『恋人』になれましたか?」

「んー」


 ソファに座り直した俺はそこで少し考えこんだ。

 そして期待の籠った目で見つめてくる希さんを見返してこう告げる。


「残念ですけど、これは恋人じゃないですね……」

「えっ?」

「さっき、首輪とリードを持ってきましたよね。あのまま行けば恋人になれたんですが、希さんはそれのせいで『道具』になってしまったんです」

「道具……」


 リードを引っ張り、希さんにもっとこっちへ近づくように命令する。こちらの両脚の間から顔を出すようにした彼女は目の端に涙を浮かべて見上げてきた。


「じゃ、じゃあっ、私はもう、人としては……」

「うん、扱われないね。道具だもん」

「そんなっ、酷すぎですっ♡」

「その割には随分と嬉しそうだよね。まあいいや、早速お仕事してもらおうかなぁ」


 時計を見るともう夕方近い。ぴん、と張り詰めるリードを引っ張って希さんをあやしながら薄く赤紫色になる空を眺め、まずは手始めに、と「道具」になった彼女へ最初の命令を下す。


「もうすぐ百合姉が時間だから、それまで『掃除』をお願いしようかな」

「掃除……はい、分かりました……♡」


 蕩け切った顔になった希さんはそれを聞いて頷くと幸せそうに破顔し、目の端から涙の粒を流す。股の間から顔を出す希さんの頭を撫で、リードを軽く引いた――

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白金家の日記 -お姉ちゃんたちとのハーレム生活- 白金 将 @sirogane_sho

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