不良品の姉友 1(希さん)

 希さんが家に遊びに来てくれた日の事だった。家に来ると希さんは何故かメイド服を着る習慣があったため、部屋でメイド姿の彼女と二人、紅茶を飲んでいると、ふと思い出したように希さんは言う。


「あの……この間、ご主人様のお友達に飲み物をこぼしてしまって……」

「ああー、あれですか。あれだったら大丈夫ですよ」

「その、迷惑をかけてしまったかなって」


 希さんは飲みかけの紅茶を持ったままうなだれる。その時、カップが若干傾き、希さんの着ていたメイド服にまかしてしまった。オレンジ色に汚れたメイド服を見た後、上目遣いになって彼女は言った。


「あっ、す、すいません」

「替え、家にいくつかあった気がするので持ってきますね」

「ご主人様……こ、こんな駄目なメイドに、お仕置きをしてください……」


 希さんはメイド服の汚れたスカートを両手でつまみながら、ぼそっとつぶやく。す、スカートの間から希さんの白タイツ、太もも、パンツが。

 汚れたメイド服を脱ごうと希さんは立ち上がった。スカートを脱ごうとした時、何か見てはいけないような物を見てしまうような気がしたので、後ろを向くことにした。しばらく経ったとき、後ろから希さんがもたれかかって来た。う、この感触は。


「……の、希さん、何をしてほしくて」

「これ、で、お願いします」


 震えた声で希さんは言う。振り返ると、案の定希さんは下着姿であった。先ほどからやけに肌の接触面積が大きいなと思っていたらこれである。慣れ始めてきた自分が怖い。


 希さんは黒いブラジャーに黒いパンツという、なんとも危ない感じの下着を着ていた。先ほどのメイド姿の名残である白タイツも残っていた。そんな彼女は片手に黒いペンを持っていて、ふたを開けるとこちらに渡してきた。


「こんな、駄目なメイドに……なんでも書いてください」


 希さんはすっかり顔を真っ赤にしてしまっていた。一応こちらはご主人様であるが、彼女の懇願には逆らうことが出来ない。ペンを受け取り、身体を差し出した希さんの近くに座り、何を書けばよいか思案する。百合姉なら何を書くのか……


「ああ、身体が、汚れていきます……」


 思いついたワードは「役立たず」であった。百合姉に言われるとグサッとくる言葉を考えているとここにたどり着いた。それを背中に書くと、どうやら身体に何を書かれたかは分かるらしく、希さんはその場で脱力したような声をあげた。


「んん、はい、私は役立たず、です……」


 ぼうっとしている希さんはうつ伏せになると、まるで重石でも乗せられたかのように動かなくなってしまった。彼女の紅潮した顔を見ると、何だかもっと落書きをしてしまいたくなる。もう少し考えてみた。しばらく考えた後、机の引き出しの中に赤ペンが入っていたことも思い出した。それを引っ張り出して彼女にちらつかせると、それだけはやめて、というような顔でこちらを見てきた。だがしかし、希さん。もう遅いのである。


「嫌っ、やめて、ください……ああっ」


 希さんの右頬と首筋にかけて「不良品」と赤いペンで書いた。鏡を見た希さんは不良品認定された自分を見てしばらく息を止めていたが、徐々に口の端が上がっていくのがこちらからも見えた。希さんの背中に乗り、身体を床に押さえつけながら、再び赤ペンを握る。


「今度は……」

「ご主人様、申し訳ございませんでしたぁ」

「黙ってろ役立たず」

「は、はい……」


 不良品メイドの白い左腕を地面に押さえつけ、そこに「変態奴隷」としっかりと書き込む。何だか徐々に楽しくなってきた。希さんが少しずつ壊れて来たのも更なる悪戯を誘っているようであった。もはや今の彼女は、人に虐げられることに喜びを感じた人形である。

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