油断した姉友 2

「こんなはずじゃなかったのに……」

「なぎささん、大丈夫ですか?」

「なんでもないですっ」


 完全にオフの日だったなぎささんとデートすることになった俺は、いまいち調子の出ない彼女に代わってデートプランを急遽作ることになった。近くの店を調べた結果、とりあえずデートとしては安定のゲームセンターに向かう。その間もなぎささんはため息をつきながら油断丸出しコーデ(スウェット&ジーンズ)を見ている。

 入口辺りにたくさんあるUFOキャッチャーエリア、そこに来てなぎささんの視線がようやく上を向いた。流石はゲーセン、今の彼女でも楽しめるはずだ……!


「なぎささん、何かやりたいものはあります?」

「えっと……」


 彼女の視線がチラっと動いた先を見ると、そこには「卓上焼き鳥機」というなんとも心くすぐられるガジェットが景品になっている機体を見つけた。早速そこへ向かって試しに100円玉を入れてみる。

 なんとなくテンション上がるメロディーが流れだし、ゲームが始まった。


「将さん、あまり無理しなくても」

「や、俺がちょっとやりたかったので。ええっと……」


 例の焼き鳥機は直方体の箱に入っている。そう、あのつるつるしている箱。

 横から掴めるわけもなく、かといって下からすくうにはアームの力が弱い。


「少しずつずらすか……」

「角の方に当ててくださいね」

「そうしてみます」


 なぎささんが隣で何かしら呟いているのを半分聞きながら、正面・横と直角反復横跳びをしながらアームの位置を整える。そして一回目の挑戦、ツメが角に引っかかったおかげで箱はやや斜めになって止まる。

 その後、何度か挑戦してみるも箱が斜めになったままうまく動いてくれない。


「んー」

「将さん」

「ん?」

「ちょっと代わってください」


 見るに見かねて、といった様子でなぎささんが交代を申し出てきた。言われた通り代わってみると、次の100円玉で彼女はアームの狙いを箱の頂点にピッタリと合わせる。そうしてアーム全体で箱の角を丸ごと押し込み、勢いそのままに箱をグルっと回転させて落とすことで焼き鳥機をゲットした。

 景品口から念願の機械を手に入れたなぎささんはそれを大切そうにぎゅっと抱きしめる。彼女は日本酒を嗜む人だから使う機会はきっと多いだろう。


「取れました……!」

「なぎささん、凄いですね! 俺にはあんなことできません!」

「知識だけはありましたが、今回はそれを運よくできただけですよ」


 そう言って二人でニコニコした後、なぎささんはふと真面目な顔に戻ると自分が持っている焼き鳥機を両手で抱えてじっと見つめる。その後、なんとも微妙そうな顔になって首をかしげた。


「あれ、デートってこんな感じだっけ……?」

「ねーねーダーリン、あのぬいぐるみ取ってー!」


 二人で首をかしげていると遠くから高校生カップルの会話が聞こえてきて、俺となぎささんは顔を見合わせた。


「なんか違う……私が知ってるデートって、もっとこう、もふもふした景品を……」

「クマのぬいぐるみとか……」

「大きいのじゃなくても、小さなキーホルダー二つを二人で分けあったり……」

「うーん」

「うーん……」


 なぎささんは(>_<)の顔になると焼き鳥機を持ったまま力んだ声を上げた。


「やっぱり今日は調子出ないですっ!」

「なぎささん、次いきましょう! ほら、プリクラあそこにありますし!」

「プリクラ……?」


 その言葉を聞いたなぎささんの表情が明るくなる。

 早速二人で筐体の一つに向かい、その中のスペースに入ってお金を入れた。


 実は、プリクラを撮ったことはほとんどない。姉さんたちと一緒にいれば体験の一つや二つはしそうなものだが、姉さんたちと出かける時にゲームセンターはあまり選択肢に入らないのだ。お陰様で今ここにいるのは初心者二人と言う有様である。


「なぎささん、使い方分かります?」

「全然……」

「多分何とかなると思いますが……」

「うーん」


 とりあえず筐体からの指示に従いながらいろいろ選ぶ。ビューティーとキュートの二択を選ばされ、なんかこうよく分からないオプションを選ばされ、印刷の時の写真の配置とかも流れでなんとなく決めてしまった。

 そして、ついに念願の撮影タイム……の前に、プリクラの定番ポーズを大急ぎで調べ上げ、それをぶっつけ本番で真似してみる。


「まずはハグですよ」

「俺が後ろに立てばいいんですね」

「お願いします。後ろからぎゅって……」

「えっと、じゃあ次はお姫様だっこを……」

「持ちます!」

「お願いします……!」


 表情もしっかり作り、事前にちょっとだけした打ち合わせ通りのものをしっかり撮ることに成功する。プリクラということもあって目元や肌の色はいくらか加工されていたが、まあよしとしよう。

 撮影を終えた俺たちは荷物を持ってお絵かきスペースに入る。そこで二人並んで座りながら、ろくに扱ったこともないペンを手にして困惑していた。


「なぎささん……やったこと、あります?」

「あんまり」

「俺も殆ど……どうしましょう」

「どうって、やるしかないですよ……!」


 目の前に立ちはだかる初体験という大きな壁。なぎささんの顔には強敵を前にしたヒーローがする薄ら笑みが浮いていた。いや、もしかしたら「もう笑うしかない」というあきらめの顔かもしれないけれど……

 二人でスマートフォンを手に「プリクラ 落書き」と検索を始める。これは戦いだ。俺となぎささんの二人で突破しなければいけないデート最大の障壁である。

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