油断した姉友 3
およそ十分後、全力を使い果たして灰になった姿で俺となぎささんはゲームセンターを出た。その手には死闘の跡であるプリクラがあり、一応いい感じのものは完成したことが証明されていた。なくさないように大事にしまう。
結構疲れたのか、なぎささんと目が合うもしばらく会話はなかった。例の焼き鳥機も彼女がしっかり抱えて置き忘れないように気を配っている。
「……将さん、私の家でゆっくりしますか?」
「名案だと思います」
「何か甘い物でも買って帰りましょう……はあぁぁ……」
ぐったりとした様子のなぎささんを励ましながら彼女のアパートへ二人で向かう。その道中、商店街近くで夏らしい物を売っている屋台を見かけて足が止まった。
「あれ、何売ってるんですかね?」
「アイスとかの類ではなさそうですが……」
「ん……?」
ぱたぱたとはためている旗を見るとそこには「水ようかん」と涼しげに書いてあった。俺となぎささんは深く考えることなくそこへ向かって二人分の水ようかんをゲットして持ち帰る。
灼熱の外をなんとか耐えてアパートまでたどり着き、エアコンをつけて腰を下ろした。先程買ってきた水ようかんをもう一度冷蔵庫で冷やしている間に彼女から氷水を貰って喉を冷やす。あぁぁ、これだぁ……
「ぷはぁ……私、すっごく疲れました……」
「俺もです……」
「なんか、まだ暑い……」
なぎささんはそう言うと上に来ていたスウェットをするりと脱いでキャミソール姿になるとそのまま床で大の字になった。ほんのりこちらまで汗の香りが届くようでドキドキするが、それ以上に頭がぼんやりしてかなわない。
部屋が涼しくなってきて汗も引いてきた。一枚脱いでシャツ姿になった。
「甘いの……」
ふらふらとしながらなぎささんは冷蔵庫から冷やし直された水ようかんを出してくる。それを二人でもぐもぐし、頭をいたわってくれる爆弾級の甘味を全身で味わった。そしてまるで何かに打ち付けられたように俺たちはその場で横になる。
「ふぇぇ……買って正解でしたね、将さん……」
「水ようかん最高……」
「ちょっと寝ます、おやすみなさぁい……」
なぎささんの声が、なんか、遠いなぁ……
……と思っていたら、いつの間にか一時間程の時間が飛んでいた。
「……え?」
状況が良く分からず、身体を起こして目をこする。俺のすぐ近くでなぎささんは床で倒れており、時折ごろごろ転がっては腕の辺りを手のひらで擦っていた。
「なぎささんっ、風邪引きますよっ」
「ん……?」
キャミソール姿の彼女を起こし、肩を持ちながら二人でベッドへ向かう。少し寝ぼけた様子の彼女は下に履いていたジーンズまで脱ぎ捨てると俺と一緒に掛け布団を被り始めた。わかるよ、エアコンの効いた部屋で掛け布団被る快感はわかるけど……
そうこうしている間に彼女に後ろから抱きしめられてしまった。まるで甘えん坊になったようになぎささんはぴったりとくっついて離れない。
「んーっ……」
「まあいっか……」
悪くないような気がして、二人で一緒の布団に入る。
その三分後、突然後ろでなぎささんがピクリと小さく震えた。
「……ん?」
「目が覚めましたか?」
「あれ、私、なんでベッドに……うぇ!?」
振り向くとそこではなぎささんが驚きで目を見開いて硬直していた。そして次に彼女は自分がジーンズまで脱いでいたことに気付いてパニックになる。その驚きようにこちらもびっくりさせられてしまった。
「も、もしかして、私っ」
「や、大丈夫です、寝てただけです……」
「あっ、良かった……いやそうじゃないですっ!」
なぎささんはベッドの横に置いてあったクッションを胸元にぎゅっと抱えると顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる。
「駄目ですよ将さん、今日はオフの日で、いろいろ油断してるんですから……」
「……それが、どうかしたんですか?」
「えっ?」
どこか芝居臭いなぎささんの言動は今日何回か聞いていたが、いよいよもって自分の中で何かのスイッチが入ってしまったようだった。なぎささんの身体に跨るようにして彼女をベッドへ押さえつけ、額がひっつくくらいの距離まで顔を近づける。
「油断してるなぎささんがかわいいと思っちゃ、ダメですか?」
「あっ……それはっ……」
しどろもどろな様子の彼女はあちこちへ視線を逃がしながら追及から逃れようとしたが、そんな甘ったれたことは許さない。抱いていたクッションも没収し、彼女のキャミソール姿が視界にはっきりと晒される。
胸元を腕で隠し、なぎささんは命乞いするような口調で懇願を始めたのだった。
「あの……お願いです、勘弁してください……」
「なぎささんのオフの姿、今日、初めて見ました。とても魅力的ですよ」
「やっ、もっとちゃんとした姿見てくださいっ、将さん!」
「そんなこと言われても……」
身をよじって逃れようとするなぎささんをしっかりと正面から抱きしめる。彼女は最初腕の中から逃れようとする振りをしたが、少しも経たないうちに顔を赤らめておとなしくなった。
「普段真面目な人の、ガードが緩んだ時って、攻め時じゃないですか?」
「あ……あぁ……」
「容赦しませんよ。デートにオンもオフもありません」
「ひっ……♡」
首の辺りにかぷりと軽く噛みついてみる。それだけで甘い声を上げたなぎささんは全身から力が抜けたようにしてベッドへ沈みこんだ。すかさず彼女の背後を取った俺は後ろから抱きしめるようにして捕まえる。
じたばたと逃れようとしていたなぎささんだがそれはもうポーズでしかなかった。彼女の表情や言葉、雰囲気を見る限り、全て彼女の望み通りだと分かってしまう。
「んんぅ……♡」
「とても素敵です。今日はもっと素の姿を楽しませてください」
「ふぁぁっ♡ 首ばっかり、キス♡ しないでくださいっ♡」
「じゃあ」
耳元でそっと、彼女を息でくすぐるようにして囁きかけた。
「なぎささんは、何をして欲しいですか?」
「ひゃあ……♡ ううっ……」
腕の中で回ったなぎささんは正面から向かい合ってきた。俺の胸元辺りに視線を落としながら、彼女はルールを破る快感に目覚めたような愉悦の笑みで口を開く。
「お口に『キス』してくださいっ♡ 私のこと、全部曝け出してください……♡」
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