紅蓮と紫電の姉友 2
車が都市部を抜ける。辺り一帯には田園が広がっており、ミラー越しに映っている先程までいた場所は緑の中に浮く灰色の島のように見えた。先程の密着から一転、俺たち二人はまたいつものような距離に戻っている。
高い建物がないせいか、目当てのバーベキュー会場があると言う山も遠くにぼんやり見えていた。そこへまっすぐに進んでいる間にすれ違う車はそれほど多くなく、自然の中を速く進んで行くのは助手席に座っているだけでも楽しい。
「将、酒は強い方だったよな」
「弱くはない、と思ってます」
「それならいいんだ。折角二人一緒にいられるんだ、潰れられると困る」
時折ガタガタと揺れながら走る車。背後から、クーラーボックスの中で缶と氷がぶつかるカランカランと涼しい音が聞こえてきていた。丁度良くお腹も空いてきているからバーベキュー前としては良い状態だ。
「最近百合たちとはうまくやってるか?」
「はい。まあ、ちょっと仲良し過ぎるかな、とは思いますけど」
「そりゃあそうだろうよ。ああ、、羨ましいなぁ」
「千秋さん、もしかして嫉妬してます……?」
質問をしながらミラー越しに表情を伺ってみたが千秋さんが特に顔つきを変えた様子は無かった。そうやっているとふとした時に彼女がミラー越しにギロリと睨んできて驚きに身を震わせてしまう。その様子を見た向こうは薄ら笑いを浮かべていた。
「気にするなよ。普段一緒にいられない分今日は一緒なんだからな」
「そ、そうですね」
今日はずっとこんな感じなのだろう、そう思いながら視線を遠くに向けていると車が山の中に入った。坂道を上ってしばらくで両側の木々が無くなって前方の景色が広がる。
どこまでも続くような蒼い空、夏を彷彿とさせる高い雲。長期休暇の時期になっている為か、何十台と入る駐車場には既に何台も先客の車が残されていた。遠くには木組みの東屋や管理棟が見え、子供たちが走り回っている様子も駐車場から窺える。
もう少しだけそこから車を走らせてオートサイトのエリアに辿り着くと先程の子供たちの親らしき人々がいた。他にも大学生の集まりや会社員のグループ、リタイア後の人たちの集いもあちらこちらで見られる。
「なんだ、可愛い子でもいたのか?」
「いや、別にそんなこと」
「着いたらお前には――おっと、その辺りでやるか」
周りの人たちと距離を取った場所でエンジンを止めて車から降りた。日差しの強さに目を細め手を額に当てて日よけにしていると、バックドアを開けた千秋さんが中からテントの生地を引っ張り出してきた。二人で力を合わせて筒のように巻かれていたそれを四角形上に広げ、今度はそこにフレームを差し込ませていく。
そんな風にしておよそ十分、どこかで見たことがあるようなオレンジと黒のテントが完成した。中は三人から四人くらいが横になれる程広く、入口に立って覗いてみると既に二人用寝袋がセットされていた。
二人用という所に疑問符を浮かべていると、いつの間にか後ろに立っていた彼女がとんと背中を押してきた為二人してテントの中に転がり込んでしまった。背後からはジジジジとテントの入り口のチャックが閉められる音が聞こえ、オレンジ色の空間は完全な密室になる。
「ち、千秋さん――!?」
振り向いたのと彼女が覆い被さって来たのはほぼ同時だった。
寝袋を枕にするようにして倒れ込んだ俺の上に暖かい女体が乗り、目の前でその豊かな双丘がゆさりと揺れる。唾を飲んで視線を上げると千秋さんは半笑いを浮かべながらこちらをじっと見つめていた。
「こんなことだって出来るんだぞ、将」
「ひいっ」
「今日明日、他の女のことは全部忘れさせてやるからな」
畏怖の念を抱かせる視線と期待させるような言葉で心臓が跳ねてどうしようもない。身体を自由に動かす権利も頭の中で想像する権利も全て目の前の千秋さんに掌握されてしまう。
左肩に置かれていた綺麗な手が首元へ滑る。顔を固定されたまま口の中へ甘くどろどろした蜜を流し込まれた。舌で口内を弄ばれる度に頭の中は目の前のお姉さん彼女のことでいっぱいになり、宣言通りに千秋さん以外の女性を忘れてしまう……!
「ひ、ひあきはんっ、むんっ……」
「あぁっ、ん、ちゅっ、んんっ、はむ、ちゅう……」
火照った身体を押し付けられながら口の中を蹂躙されて身体中から力が抜けてしまう。一切の抵抗が出来ないまま繰り返されるキスで彼女に逆らおうだなんて意志はなくなり、身体の感覚も千秋さんの熱を覚えてしまっていた。
「んっ……ふふっ、可愛い顔してるな、将」
「ち、千秋さんがこんなことするから……」
食われる、そんな風に諦めていた時だった。
乱暴に襲い掛かってきたはずの千秋さんは俺から離れ、こちらへ背を向けるとテントの入り口を開いて外へ出て行ってしまう。そして入り口からこちらを覗きながらにやりと笑った。
「さ、バーベキューしようぜ」
そう言いながら彼女は自身のTシャツに浮いているおっぱいを下から支えるとたぷたぷと揺らして誘惑してきた。欲求に抗えず千秋さんの揺れる胸を凝視してしまい、ふと気が付いた時には股間が立派に主張してしまっていた。
※
オレンジ色のテントの横にバーベキューセットを組んで火を起こす。ガムのような着火剤に火をつけて放り込み炭で囲うこと数十分、隙間を作るように組まれた木炭の間からは赤い炎がちらりと見え、焼肉用の網も十分に温まっていた。
千秋さんが家から持ってきた野菜、売り場で買ってきたばかりの肉がテーブルの上にトレイごと置かれる。景気付けにと彼女は豚肉を網の上に並べ始めた。
「大分腹も減って来たからな。いっぱい食えよ」
「千秋さんの分も考えて食べます」
「急がないと私が全部食っちまうからな。のんびりしてられねぇぞ?」
「はい……」
バーベキューコンロの近くにアウトドアチェアを組み、そこへ並んで座りながら金属製のタンブラーでお茶を飲む。ふと、横にいる千秋さんの方に視線を動かすと彼女は白く変わっていく豚肉の様子をじっと凝視していた。
しかしそれよりも気になっている物がいくつかある。
(千秋さん……やっぱり、胸大きいな……)
先程店の中でも指摘されたことを忘れたわけではないが、それでも千秋さんの身体はついつい見入ってしまう。女性でありながら凛々しい顔立ちをした彼女は口調も立ち振る舞いも男らしいのに、一方の身体つきは女性がもつそれらの中でも群を抜いて魅力的だ。そのギャップが心をつかんで離さない。
「ん、どうした? また甘えたくなったのか?」
「あ……いや、今は大丈夫、です」
相変わらずこちらが夢中になっていたことを本人に悟られてしまう。オートサイトには他の人たちもいる為、テントの外で千秋さんとくっつくのはいろいろよろしくないと彼女の要望を断った。
いや、でも、実際の所は千秋さんに甘えたかったかも……そんなことを考えていると肉が焼けていて、お先に失礼と彼女がトングで豚肉を一枚引きはがした。
「んっ……うまい、これなら大丈夫だな」
「こっちの分もお願いできますか?」
「そうだな、将、ちょっと口開けてろ」
「えっ?」
言われるがままに口を開けて待っていると、千秋さんはトングでもう一枚肉を取って箸で持ち直す。そうしてこちらの目の前で肉に息を吹きかけて少しだけ冷ました後、口の中に肉を入れて食べさせてくれた。
「んんっ」
「どうだ、美味しいか?」
「ん……んぐっ、美味しいです……」
千秋さんからのあーんに慣れてない俺はつい視線を落としてしまう。そしてまたやってしまったと気が付いた。目の前でシャツを持ち上げている彼女のお山を再び凝視してしまい、急いで顔を上げたが彼女にジト目を向けられてしまった。
「あのな」
「す、すいません」
「……ちょっとだけだぞ?」
辺りをちらちら窺った千秋さんは俺にもう少し寄るように手招きをする。アウトドアチェアをずらして横にくっつくくらいに近づくと、彼女はTシャツの裾に手を掛けて思い切り持ち上げた。そしてすぐさま下ろされる、それに俺は巻き込まれて彼女の服の中に頭を突っ込んでいる体勢になってしまった。
「む――」
「ほら、ちゃんと楽しむんだぞ……?」
顔全体を覆っているのは素肌の柔らかい感触。谷間から香る、女性の匂いと汗の匂いが入り混じったもので頭の中が真っ白になってしまった。
「ひっ」
「まったく、お前と言う奴は」
他の人からいつ見られるかも分からない、そういう状況であるからすぐに解放される。だけど出たばかりの俺は幸せで歪んだ表情をしてしまっていて、いろいろなことに対してよわよわになってしまっただらしない姿を見せてしまった。
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