第55話 最終回
最近のカイルはおかしい。何か隠し事があるようで時折、窺うような視線を感じる。
正直その態度にイライラする。言いたいことがあればはっきりと言ってほしい。
「どうかしましたか?」
私が視線を合わせて聞こうとすると、するっと逸らされる。そして何事もないというのだ。
初めこそイライラしていたけど、段々と不安になってくる。
まさか別居したいとかそういう話ではないだろうか。
私とカイルは真名のこともあって結婚した。結婚すれば一生涯離婚は出来ない。もちろん全て承知して私たちは結婚したけど、離婚は出来なくても別居するのは問題ないのだ。
私は別居なんてしたくないけど、もしかしたら一緒に暮らすのが嫌になったのだろうか。
いつも優しいし、私の意見も取り入れてくれて母親とも以前よりは仲良くしてくれるようになった。でもそれがうっとうしかったのかもしれない。はるか年の下の人にいろいろ言われるのは気分が悪いものだ。カイルが何も言わないのをいいことに調子に乗っていたのかも。
最近のカイルは緊張している。私が話しかけるとビクッとする。
これは私を恐れているの? いくらなんでもそれはないわよね。
ハッ、もしかして浮気? 新婚なのに浮気問題? 浮気した旦那の態度がこんな感じだって誰かが言っていたわ。でも浮気だなんてカイルがするかしら。
あり得ない話でもないわね。サーシャと婚約していた時も他に女がいたもの…。
こういう場合、怒るべきなのかしら。でもいきなり怒ったりして嫌われるのも困るわ。
「カイル、もしかして浮気してる?」
結局私にできたのは直球で尋ねることだった。隠し事は問題を大きくすることは学んでいる。
その時のカイルの様子では浮気はしていないみたい。私お問いに大きく目を開いてた。
「う、浮気なんてするわけないだろう。し、新婚なんだし」
「どもるところが怪しいかな」
本当は怪しいとは思っていないけど一応鎌をかけてみる。カイルはぶんぶんと首を振って否定した。
「絶対に浮気はしていないから…」
「本当みたいね。でも最近のカイルはどこか変よ。何か言いたいことがあるのでしょう?」
カイルは突然しどろもどろになり、心なしか頬が赤いような……。
本当にどうしたのかしら。
「言いたいというか、言わなければならなかったというか…、なんかこの部屋暑くないか?」
額に汗がつたっている。でもそれほど部屋が暑いとは思わない。
「暑くはないと思うけど、窓でも開けましょうか」
私が窓を開けるために立ち上がると、カイルが私の手を取り跪く。
「いや、窓は開けなくていい。それより聞いてほしい」
「…はい」
なんだかすごく怖い。まさか別れ話とかじゃないわよね。彼の手から緊張しているのが伝わってくる。私までドキドキする。
「もう結婚していて今さらかもしれない。でもどうしても言っておきたい。もう後悔はしたくない」
これってもしかして……。ドキドキが酷くなって、カイルの声が聞こえにくくなる。
私は小さく深呼吸をして彼の言葉を待つ。
「リリアナ、生まれ変わっても一緒になろう」
カイルは生まれ変わりがあることを知っている。私は身をもって体験している。
だから言ってくれないのだと思っていた。もうこりごりだって思っているのかもって…。
でも違ったみたい。カイルはそれでも一緒にと言ってくれた。サーシャは死ぬ前に一緒になれないと言ってカイルを悲しませてしまった。
でも私は間違わない。たとえ死を前にしても彼にその言葉を言うつもりはない。
「ええ、カイル。生まれ変わっても一緒になりたいわ」
カイルの手を強く握り、返事をした。
カイルは私の言葉を聞くまではとても緊張していたのに、返事を聞くや否や歓喜の表情を浮かべ私を抱きしめてくれた。
まだまだ問題は山積みではあるけど、カイルと一緒ならきっとうまくいくだろう。
私は記憶の中にいるサーシャに話しかける。
『サーシャ、私は貴女の分も幸せになるからね』
そしてカイルを必ず幸せにすることを誓った。
生まれ変わっても一緒にはならない 小鳥遊 郁 @kaoru313
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