第6話
兄は帰る馬車の間中不機嫌だった。私と母は触らぬ神に祟りなしとばかりに話しかけたりはしなかった。屋敷に到着した時はホッとした。これで兄の不機嫌な顔とはおさらばできる。
「リリアナ、話がある」
えー! すごく嫌だったけど逆らうことはできない。兄は父様より厳しいから外出禁止とかおやつ禁止とか、とても酷いことをするのだ。逃げることのできなかった不運を嘆きながらトボトボとついて行く。
兄の部屋ではなく、父の執務室だった。そこには父様もすでにいて仕方なくソファに座る。唯一助けてくれそうな母の姿はない。
「何の話かわかるか?」
「あー、何でしょう」
正直、いろいろありすぎてよくわからない。自分から墓穴は掘りたくないので黙っっているに限る。
その返事に兄と父は揃ってため息をつく。
「最近夜会に出席するようになったのは、カイルに会うためなのか?」
父にあまりにも予想外のことを聞かれ返事ができない。だがそのせいで余計に勘違いされてしまった。
「やはりそうなのか。まるで夜会に興味のなかったリリアナが、カイル伯爵の行きそうな夜会ばかりを選んで出席していると聞いた時はまさかと思っていたが…」
な、誰がそんなことを……って犯人はここにいない母以外にはいない。もう母様ったら、変なとこには頭が回るんだから。そんなに露骨に選んでいたつもりはなかったのに気づかれてたのね。
「べ、別にそんな理由ではないです。たまたまでしょう」
「それならどうしてカイル伯爵と二人っきりで庭に出た? もう噂になっているぞ」
「噂って、庭に出ただけで噂になるのですか?」
「はぁ。そこまで世間知らずだったのか? 二人っきりというのがまずいんだ。せめて誰かお付きのものでもいれば問題ないが」
兄が頭を振って嘆いている。
そんな…。私は知らなかったけど、カイルは絶対に知ってたはず。どういうつもりなのかしら。
「お前がその気ならカイル伯爵の話を受けようかと思う」
父の言葉に兄が反論する。私には何のことかわからないけど、兄にはその言葉だけでわかっているようだ。
「カイル伯爵は父様と同い年ですよ。そんな年上の男との結婚なんてリリアナが可哀想です」
「そのリリアナが好きだと言ってるのだから仕方がなかろう。変な噂になるよりは良い。カイルはそんなに悪い男でないことはお前が一番知っているであろう」
ちょ、ちょっと待ってよ。話が飛んでるから。どうして私がカイルを好きってなってるのよ。それに結婚って何? どうして私とカイルが結婚することになるのよ。
「お父様、わたくしはカイル様を好きだと言ってませんわ。誤解しないでください」
「誤解だと? では何故庭に出た? 何の話があるというのだ」
年の離れた私とカイル伯爵には共通の話題などないと思われても仕方がない。確かに軽率な行いだった。それは認めよう。しかし幾ら何でも二人で庭に出ただけで結婚させられるのは御免被る。何としても父を説得しなければ。
「庭に出たのは迂闊でした。でもそのような事で結婚の話を持ち込まれてはカイル伯爵も困ると思います。幸いわたくしはもう少しすれば学校に戻るのですから噂も収まります」
カイルの言ってたことは非常に気になるけど、これ以上近付いて結婚させられても困るので学校に戻るまでは家で過ごすことにしよう。
「カイル伯爵からは縁談の話が来ているから困ることはない。お前と彼では年齢が離れているので今まで話さなかったが、もしその気があるのなら考えてみなさい」
「は? 縁談の話って本当ですか? お父様は昔、彼には忘れられない女性がいるとか言ってなかったですか?」
「そんなことを言ったか? 昔に聞いた話だ。事実かどうかもわからん話だ」
「父上、私は反対です。確かにカイル伯爵は良い人ですが、まだリリアナに結婚は早いです」
兄は父と違ってカイルとの縁談は反対の姿勢だ。一緒に仕事をしているというけど何か思うことがあるのかもしれない。
とりあえず兄が反対しているうちは、無理やり婚約とかにはならないだろう。
それにしてもカイルは何を考えているのだろう。生まれ変わりのこととか結婚していたとか謎が深まるばかりだ。早いとこ王女に会わなければ、頭がおかしくなりそうだ。
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