第25話

「ところで、ソールとは仲良くなったのではなかったのですか? なんだか、こちらを睨んでいるように見えるのですが?」


 私はソールがカイルを睨んでいるのが気になったので尋ねる。するとカイルはソールの方をちらっと見て大きなため息をついた。


「彼とは分かり合えた時もあったが、サーシャが亡くなってからはずっとあの調子なんだ」

「でもソールは私の身体が弱いことを知っていたのに、亡くなったからと言って貴方を責めるとは思えないわ」


 ソールはいつも私の心配をしていた。とても大事にしてくれていたと思う。でも理不尽な恨みを持つような人ではない。


「サーシャはあの事件がなければ、もっと生きれるはずだった。結婚して一年もせずに亡くなったのだからソールが私を恨むのも無理のないことだ」


 カイルは仕方のないことだと思っているようだ。たぶん言い訳すらしなかったのではないだろうか。閉じ込められたことはカイルのせいではないのだから、ソールにも言うべきなのに。ソールなら説明すればきっとわかってくれる。


「そうやって自分で何もかも決めて諦めるのは良くないわ。話せばソールはきっと理解してくれるわ」

「そうだろうか。ソールは私に言ったよ。泣きながら『君を絶対に許さない』と」


 ソールがそんなことを言うなんて、私が知らない何かがまだあるのだろうか。


「おかしいわ。サーシャの死因は病死になっているのでしょ? それなのにどうしてそのようなことをソールが言うの?」


 グレース王女が首を傾げる。私が閉じ込められたことは隠されていたのだから確かにおかしい。病で死ぬことは私のように身体が弱ければ突然おきても不思議なことではない。どうしてソールはそんなにカイルを責めたのだろうか。


「ソールなりに調べたようだ。サーシャの死は突然すぎたから納得いかなかったらしい」

「それで何がわかったというのですか?」

「私にせいでサーシャは死んだと言われた」

「それだけですか?」

「ああ、私は何も言い返すことができなかった。確かに私と結婚しなければもう少しは長く生きれただろうから」


 それは結果論にすぎない。結婚していなくてもやはり死んでいたのかもしれないのだから。そう言って慰めてあげたい気もしたが、この場にはグレース王女もいるのでやめておいた。

 それにしてもどうしてカイルはもっと詳しくソールに話を聞かなかったのだろう。もしかしたらカイルが知らない何かをつかんでいるのかもしれない。私はソールから話を聞きたいと思った。でも彼にいきなりサーシャの死について話があると言っても変な目で見られるだけだろう。かといってこれだけ嫌われているカイルに話してくれるだろうか。無理な気がする。


「奥様から聞くのはどうかしら」


 グレース王女が小声でそう言ったとき私は何ことかわからなかった。けれどカイルはすぐにわかったのか、


「いくら夫婦でも話していないのでは?」


と言った。それで私にもソールの奥さんが何か知っているのではないかという話だとわかった。たしかに奥さんの方が近づきやすい。何か理由をつけて呼び出してもいいかもしれない。


「そうね。話しているかもしれないし、話していないかもしれない。でも彼女は使えるわ」


 ソールの奥さんを眺めているグレース王女は獰猛な目をしていた。思わず私がビクッとしてしまった。


「使えるってどういう意味ですか?」


 嫌そうな顔でカイルが尋ねる。


「そのままの意味よ。彼女は娘の縁談でとても頑張っているの。それを利用すればいくらでも私たちのために動いてくれるわ」

「そんなにうまくいくかしら」

「ふふふ、わたくしに任せなさい。こういうのは得意なのよ」


 グレース王女の笑みに、心の中でソールの奥さんに謝る。でもその方法しか思いつかないので王女に任せることにする。カイルも悩んでいたけど、


「頼みます」


とグレース王女に頭を下げた。


「でも利用するだけでは、またカイルが恨まれるのではないかしら」

「まあ、人聞きの悪いこと言わないでほしいわ。わたくしは利用するだけではありませんよ。リリアナの第二の実家でもあるマドリード伯爵家を大事にしてくれる婿を選ぶから心配しないで」


 グレース王女がここまで約束してくれるのなら安心だ。きっと素晴らしい婿を紹介してくれるだろう。

 カイルをまだ睨んでいるソールを見ると目が合った。思わず前世の時と同じように微笑んでしまった私に、ソールは少し驚いた顔をした。私は慌てて彼から視線を逸らすことで誤魔化した。

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