第53話
義母とのお茶会は無事に終わった。彼女はサーシャにしたことを後悔していた。
私にはそれだけで義母と仲良くなれる気がした。義母がサーシャにしたことを反省していないようだったらさすがに仲良く付き合うのは無理な気がしていたからホッとした。
あとはカイルと義母との仲を取り持たなくてはいけないけど、これは急がなくてもいいだろう。義母にしてみれば何もかもカイルのためにしたことだったのだから、いつかはその気持ちがカイルにも通じるはずだ。
「今日、母がきたそうだね」
「あら、知っていらしたの?」
「いや、帰ってきたときに聞いた」
ノートンから聞いたようだ。お茶会をすることは口止めしていたけど、無事に終わったのでいいと思ったのだろう。
「お義母さまとは仲良くやっていかないといけないでしょう?」
「無理はしなくていいと言っただろう」
「無理なんてしていません。それにいろいろ話したことで誤解も解けましたの。お義母さまはケイト嬢の手紙を真に受けただけですわ」
「だがそれによってサーシャは酷い目にあうことになった。だいたい私はケイトを母に紹介していない。そんな女の話の方をサーシャよりも信じた。それが許せない」
カイルの表情は苦渋に満ちている。母に対する怒りもあるみたいだけど、自分に対する怒りの方が多いように感じた。
「でも、ケイト嬢と付き合っていたのは事実でしょう? お義母さまが騙されたのは仕方のないことだわ。貴方も初めはサーシャとの婚約を嫌がっていたことをお義母さまも知っていらしたから起きたことだと思うの」
「…私が一番悪かったということか…」
私の言いたかったことは通じたらしい。そのことを責める気持ちはないけど義母のしたことも許してあげてほしい。
「カイルだけが悪かったわけではないけど、もっとお義母さまと話しあっていれば誤解も起きなかったと思うの。あなた達親子は言葉が足りないわ」
親子ほども年の違う私が説教をするのはどうかと思ったけれど、カイルは気にしていないようで神妙に私が言ったことを考えている。
「…そうかもしれない。母に心配をかけたくなくて結論しか言わなかった。サーシャとの結婚が決まった時も彼女の病気のことも言わず、ただ事務的に報告しただけだった。あの時恥ずかしがらずにサーシャに恋していることを母に話していたらケイトからの手紙に惑わされることはなかったのだな」
過去を思い出して話すカイルは後悔している。私は震えている彼に手を握った。
「今度は三人でお茶会をしましょう。きっとサーシャも喜ぶわ」
「まだ母と仲良くできるかわからないけど、君が傍にいれば少しは歩み寄れそうな気がするよ」
カイルはサーシャに恋していたと言った。そのことについて私は考える。
カイルは同情からではなくサーシャを選んだのだろうか。サーシャの記憶ではカイルは同情とサーシャへの好意から結婚してくれたことになっていたけど、恋という文字はなかった。ケイトと別れたと思っていたけど、まだ付き合っているのかもと終わりの方は誤解までしている。
若かったからかカイルは言葉が足りなかったのね。今のカイルはどうだろうか? 言葉が足りている?
そう考えてハッとした。そういえばプロポーズってされたかしら。あの言葉をもらっていない。
『生まれ変わっても一緒になろう』
どうして今まで気づかなかったのかしら。もしかしてカイルは次は一緒になりたくないの?
あり得る話だ。今回だって真名の問題が私たちを縛ることになった。あれがなければ一緒になっていただろうか? よくわからない。結婚だって強引に私が決めたようなものだ。
ジッとカイルを見つめていると、彼が首を傾げる。
「ん? どうかしたかい?」
ここでプロポーズの言葉が欲しいとは言えない。言えば言ってくれるかもしれないけど、それは何か違う気がする。強請ることで言ってもらったプロポーズには何の価値もない。
もう結婚しているからプロポーズの言葉はもらえないのかな。でも言ってもらいたい。確かにサーシャの時にはしてもらっているけど、私はリリアナだもの。
リリアナとして『生まれ変わっても一緒に』という言葉が欲しい。
カイルが言ってくれる日がくるかしら……。
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