第46話

グレース王女にソファを勧められたので座ると、侍女がお茶の用意をしてくれる。

 私はお茶を一口飲むとホッと息をつく。王宮のお茶は高級品なのか味が違う。


「弟のヒースがショックを受けているのを知っている?」

「ショック?」


 突然ヒース王子がショックを受けていると聞かされてもよくわからない。騎士団の方で何かあったのかしら。


「失恋したのよ」

「失恋!」


 金髪碧眼の美少年で第二王子とはいえ将来有望なのに失恋するのかと驚いた。

 身分違いか、年上の美魔女のような女性だろうか。想像するととても楽しい。失恋は可哀そうだけど、ヒース王子は王位継承権第二位なので自由に恋愛できる立場ではない。


「まあ、他人事のような顔をして。相手はリリアナなのに」

「えーーっ! 私なの? またからかっているのでしょう」

「リリアナはやっぱり気づいていなかったのね。ヒースは小さいころから貴女の後ばかり追いかけていたのに」


 ヒース王子が私とグレース王女の遊んでいる所に乱入してくるのはいつものことだったので気にしたことはなかった。それが私目当てだったなんて意外すぎる。何かの間違いではないのか。


「でも何も言われたことなかったわよ」


 鈍感な私だって何か言われていたら気が付いたはずだ。ヒース王子からそれらしいことを言われた記憶はない。


「どうも年下だから、せめて16歳になるまではと遠慮していたみたいね。それが二年前に突然婚約して、それでも破局になればとか思ってたのについに結婚でしょ。さすがに失恋決定。普通は婚約された時に失恋だと思うけど、王族は諦め悪いから…」


 そういえばカイルと婚約してからヒース王子とはあまり話さなくなっていた。てっきり思春期をむかえたせいだと思っていたけど違ったのね。でもヒース王子に惚れられていたと聞かされても今さらな感じでピンとこない。告白もされていないし知らなかったことですました方がいいだろう。

 そんなことより王族は諦めが悪いと言って、悲し気な表情になったグレース王女が気になる。


「グレース、わたくしたちって友達よね」

「ええ、親友だと思ってるわ」

「じゃあ、教えて。貴女の好きな人は誰なの?」


 今までは知らないふりをしていた。そのほうがいいと思っていたから。だってグレース王女は王族で、ヒース王子と同じように自由に恋愛ができないと知っているから。私だって公爵令嬢として政略結婚させられる覚悟をしていたから同じことだと思っていた。

 でも今は違う。私は大好きな人と結婚した。これはグレース王女のおかげだと思っている。グレース王女の手助けがなければカイルと一緒になることはなかったかもしれない。ううん、真名のことがあるから最終的には夫婦になっていたかもしれないけど、きっと仮面夫婦のような関係だったのではないかと思う。

 だから今度は私がグレース王女の悩みを聞く番だ。もちろん手助けだってしたい。でもグレース王女は王族で身分違いならば絶望的だ。


「わたくしは…そうよね。リリアナは気づいてたのね。好きない人がいるのは認めるわ。でも誰だかは聞かないでほしいの」

「それは、絶対に一緒にはなれない人だから?」

「……そうよ。絶対に無理な人なの。それに、彼の方はわたくしのことをなんとも思っていないの。王女としては扱ってくれているけど、それだけ……」


 王女として扱ってくれてる? それって結構身近にいるってことかしら。

 でも誰のことだか全くわからない。幼いことろから一緒にいたのに…。


「一度カイルに言われたことがあるの。彼には愛する女性がいるからやめたほうがいいって」

「それってカイルは知っているってこと? ずるいわ。わたくしの方がグレースの友達なのに」

「ふふふ、ずっと昔の話。きっとカイルだって忘れているわ。なにげなく言われた言葉だもの」


 ずっと昔ってことは幼いころのことかしら。私はカイルとはあまり会うこともなかったけれど、カイルは陛下の親友だからグレース王女とは小さいころから知っている。だとすると覚えていない可能性の方が高い。でも私は聞いてみようと思った。それはグレース王女の意に反しているかもしれない。

 それでも私は彼女のために動きたい。だってこのままでは何もしないまま彼女は好きでない男と結婚することになる。それが王族としては当たり前だってことはわかっているけど……。

 グレース王女は私が黙ったことで、この話は終わったと思ったらしく新婚生活について聞いてきた。

 カイルが迎えに来てくれるまで、たくさんのことを話した。でも私はグレース王女にもあの足音のことは話すことが出来なかった。                   

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