第47話

「ねえ、カイル。グレース王女の想い人って誰ですか? わたくしにも教えてくださいませ」


 私は家に帰ってきたカイルに早速尋ねた。でもカイルは首を傾げただけだ。


「想い人? グレース王女に? それは誰だ?」


 私が尋ねているのに……。どうも誤魔化すとかそんな様子ではない。本当に見当もつかない顔だ。

 でもここで諦めることは出来ない。カイルには思い出してもらわないと。


「カイルは知っているってグレース王女が言っていたわ。お願いだから思い出して」


 可愛い顔で頼んだけど、カイルは首を傾げるばかり。


「あのグレース王女の想い人? 彼女の周りには無害な男性しかいないからな。いないと思うが……本当にそんな男が存在するのか?」


今度は私が首を傾げた。無害な男性? 何か問題が起こらないように初めから恋愛にならない男性しか近づけないようになっているってこと?


「それって酷くない?」

「酷いと思うか? 何代か前の王女は苦しい恋に疲れて自死したし、心中したものもいる。初めからそういうふうにならないようにした方が彼女のためだと思わないか。よく考えてごらん。君の周りだって恋愛対象になる男性はいなかっただろう。グレース王女だけじゃないんだよ」


 確かに私の周りにはそんな男性はいなかった。そこでヒース王子を思い出した。彼はどうなんだろう。


「ヒース王子はどうなの? 小さいころから彼とは遊んでいたわ。彼は年が下だからよかったの?」


 そう尋ねるとカイルが呆れた表情で私を見た。そして「ヒース王子が気の毒すぎる」とか呟いた。


「君はヒース王子の婚約者候補の筆頭だったんだ。だから彼と会うことは誰もが認めていたのさ」

「婚約者候補? そんなこと初めて聞くわ」


 今日は驚くことばかりだ。特にヒース王子には驚かされる。ヒース王子が私のことが好きだったとグレース王女から聞かされて、今度は婚約者候補の筆頭? 

 それも知らなかったのは私だけだったみたいな言い方だ。

 そんなこと言ってくれないとわかるわけがない。一番悪いのは両親だと思う。私はここにはいない両親に責任を押し付けることにした。

その時あることに気付いた。ヒース王子に婚約者候補がいるってことはグレース王女にもいるのかしら。


「ではグレース王女の婚約者候補の筆頭って誰です? そんな人いないですよね」


いたら気付いたはずだ。ずっとそばにいたのにグレース王女からは聞いたことがない。


「隣国の王子だ。生まれた時から話があってほとんど本決まりだと思われていた」

「え? でもその話は断られたって…」


断られたってことは聞いている。でも生まれた時から話があったことは初めて聞いた。私は今までグレース王女のそばで何をしてたんだろう。


「ああ、今頃になって向こうからバッサリと断られた。酷い話だが王女がまったく気にしていないので皆は胸をなでおろしている。私はみんなのために気にしていないふりでもしているのかと思っていたが、想い人がいるのなら納得だな。でもそれは誰だ?」

「本当に思いつく人はいないんですか? カイルの知っている人らしいですよ」


グレース王女の話ではカイルは知ってるはずだ。


「俺が知っている人? 王女がそう言ったのか?」

「はい。彼には愛する女性がいるからやめたほうがいいとカイルに言われたそうよ」

「愛する女性?......知らないな。それにそんな奴は王女の相手にならないだろう。どうにもならないのならそっとしておいたほうがいい」


グレース王女が想っていても、愛する女性が他にいる男性では話にならない。カイルにそう言われて、私が何も考えていなかったことに気付かされた。

ただグレース王女に私と同じように幸せになってもらいたかっただけなのに、上手くはいかないものね。


「私ってグレース王女に何もしてあげられないのね」


私が落ち込んでいるとカイルが頭をポンポンと叩いた。


「王女は君という友達がいることが大切なんだよ。何かして欲しくて一緒にいるわけじゃないさ」




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