第51話
「カイルはいないのね」
お義母さまの第一声はカイルのことだった。とても残念そうな声で言うのを見て、カイルに今日のお茶会のことを話さなかったことで気が咎める。
どうしてもカイルを交えずに話してみたかった。
「すみません、お義母さま。今日は二人だけのお茶会なのです」
「貴女と私だけということ?」
お義母さまは不思議そうな顔をした。嫁である私とお茶を飲むのも抵抗があるのだろうか。でもサーシャの時は一緒にお茶を飲んでいた。
「ええ、いろいろと話さなければいけないことがありますでしょう?」
「私にはありませんわ。私はもうオッドウェイ伯爵家を出た人間です」
「でもカイルの母親ではありませんか。カイルの母親ということはわたくしの母でもあるのです仲良くしていきたいですわ」
「貴女が私の娘になるのですか?」
なぜか驚いたような顔をしている。サーシャだった時は娘が欲しかったといつも言っていたのに、今は違うのだろうか。
それともあの時の出来事が彼女の考えを変えてしまった?
「サーシャ様とは彼女が幼いころからの付き合いだった聞いていますから、彼女と同じようにとはいかないでしょうけど仲良くしていきたいですわ」
「サーシャ?」
私がサーシャの名を出したことに、とても動揺したようで手が震えている。でもサーシャの話題は避けては通うことはできない。
「ええ、前の奥様のサーシャ様です」
「あ、貴女はカイルともサーシャのことを話しているのではないでしょうね」
「え、っと。少しは話していますわ」
嘘ではない。カイルとは前世の話をしているもの。
でもお義母さまには衝撃的なことだったらしく、茫然とした顔をしている。私たちにとっては当たり前のことだったけど、普通は前妻のことは話さないものなのかもしれない。
「そう、貴女は変わった女性なのね。どうしてカイルと結婚することになったのか不思議だった。あの子は前妻だったサーシャを忘れることができなくてあの年まで再婚を拒んできたの。それなのに急にこんな若い娘と結婚することになって。てっきり公爵家からの申し出で断れなかったのかと最初は疑ったくらいよ。でもその心配はなさそうね」
「ええ、わたくしたちは自分の意志で結婚を決めました。貴族としてはあり得ないことかもしれませんが、父も許してくれました」
「でも親子ほど年が離れているのは気にならないの? 子供だってできないかもしれないわ」
「わたくしは子供ができるかできないかは神が決めることだと思っております。ですからもしできなかったとしても仕方のないことです。人間が神に命令することなんてできませんもの」
カイルとの子供はまだ考えていない。サーシャの時は病気だったこともあって子供は無理だと最初から分かっていた。でも今世は年齢差が問題らしい。年齢差があると子供ができにくい? 誰が言ったのがはじまりかは知らないけど怪しい話だと思っている。
だって年齢差があっても子供がいる人は結構いるもの。
それにもしできなかったとしても私は気にならない。私とカイルが再会して前世を思いだしたのは奇跡に近いことだってわかっているから、これ以上の奇跡は神様に任せるつもりでいる。
私が望むのは出来るだけ長くカイルと一緒に過ごしたいだけだ。
「そうね。私もカイルしか産むことが出来なかった。そのせいであの子には苦労をかけてしまったけど、子を授かることが神の領分なら仕方のないことなのね」
しみじみと呟くお義母さまの顔にはかすかに笑み浮かんでいた。それを見た私はしばし悩む。今日はサーシャ様のことを尋ねるつもりだった。でも過去のことを蒸し返さなくても仲良くできるのではないかという気がしてきた。それならいっそ…。
「駄目よ!」
「えっ?」
思わず叫んだ私をお義母さまは目を見開いて見ている。
追及するのは嫌なことだけど逃げていても解決はしないってわかったのに。また同じことを繰り返すところだった。
「ごめんなさい。大きな声を出してしまったわ」
「驚いたわ。何かありましたの?」
「ええ、今日はどうしても教えていただきたいことがありますの」
「それでカイルがいないのね。もしかしてサーシャのことかしら」
私が何を聞きたいのか、お義母さまにはお見通しだった。
「はい。わたくしはお義母さまから見たサーシャ様を知りたいのです」
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