第18話
「まあ、それで? そのあとはどうしたの?」
期待しているグレース王女には悪いけどその後なんてない。時間切れだった。
迎えの侍女が現れたので、そこで話は終わったのだ。でも知りたかったことは聞けたので有意義な話し合いだったと思う。
「色々と聞くことが出来たのは王女様のおかげです。ありがとうございました」
「何を言ってる。肝心のことがわかっていないでしょう。貴方を閉じ込めた人は誰だったの?」
「それは、そっとしておこうと思ってます」
私は知りたくなかった。サーシャは前世ではあるけど、誰かに憎まれていたとは思いたくなかった。もし知っている人だったらと思うと足がすくむ。
「馬鹿ね。それで本当にいいと思ってるの? 誰かが貴女を陥れたのよ。殺すつもりだったのかもしれないのよ」
「王女様、それはないと思ってます。普通の人はあれで死ぬことはないですから。わたくしだったから死んでしまっただけなのです」
そう身体の弱い私だったから死んでしまっただけなのだ。ただのイタズラだったのかもしれない。それを今になって暴いても誰も喜ばない。
「それはわからないわよ。貴女が身体が弱いことを知っていて閉じ込めたかもしれないでしょ。だとしたら明らかに殺人よ」
「そんな。わたくしが殺されるほど憎まれていたと言うのですか?」
「理不尽に憎まれることもあるのよ。ただお金を持ってるだけでも恨まれたりするの。貴女は将来有望なカイル伯爵と結婚したのだから憎まれててもおかしくないわ」
カイルのことで恨まれる? 考えてなかったけどあり得る話だ。彼は結婚するまで女性関係が派手だったと聞いている。その時の女性が逆恨みを抱くこともあるだろう。
「でも彼女たちに伯爵家の屋敷に入り込んで私を閉じ込めることができるとは思えないわ」
「もうどこまでも考えが甘いわね。私だったら自分でしないわよ。お金で人を雇うもの」
グレース王女ミステリー小説が好きだったことを思い出した。彼女の言うようにお金で人を雇うのはありそうだ。ただ数時間閉じ込めるだけだと言われれば罪の意識もなく手を貸すかもしれない。
「すごくあり得る話だけど、人を雇えばそれだけバレる可能性も高くなるわ。そんな危険を犯すかしら」
「そこが問題なのよね。だから貴女が死ぬことを知っていて閉じ込めたかもって思ったの。亡くなったりしたら共犯として自分も罰せられるから口を閉ざすと思うのよ」
「ただのイタズラに手を貸しただけですまないとなれば、確かに口を噤むわね」
「そうよ。それどころか自分の身の安全も気になったと思うわ。殺されるかもしれないって思ったのではないかしら」
グレース王女の意味ありげな視線を受けて、ハッとする。
「じゃあハウスキーパーが閉じ込めた犯人で間違いないのね」
「恐らくそうだと思うわ。彼女は貴女が死んで怖くなったのよ。それで逃げたか.......全部話すと言って消されたかのどちらかね」
消されるって、その可能性は考えてなかった。失踪したハウスキーパーが怪しいとは思ってたけど、彼女まで殺されているとは考えなかった。私はそれほどの恨みを買っていたのか。
「出来たら逃げていてほしいわ」
私を閉じ込めた人かもしれないけど、それでも生きていてほしい。
「リリアナは本当に甘いんだから」
呆れてしまったのかグレース王女はそれ以上はそのことについては何も言わなかった。
私は頼みにしていたザッハトルテのケーキを食べる。このケーキはここでしか食べられないから楽しみにしていたのだ。グレース王女がふくよかなのは王宮でしか食べられない、巷には広まることのないケーキのせいかもしれないなと思う。
普通のケーキはどこでも売ってるけど、ザッハトルテやバームクーヘン、ティラミスなどはここでしか食べることができない。レシピがどこにも流れないのだから徹底している。
「それでこれからどうするの?」
「どうもならないわ。わたくしはもうカイルと話すこともないでしょうから ここで終りよ」
「まあ、せっかく面白くなったのに残念だわ」
「面白いって、酷いわ」
「あら、ごめんなさい。でも真名のことだってあるのだからこのままってことはないと思うわよ」
そうだった。結局真名については話ができなかったのだ。でも離縁する時でさえ真名が原因でどちらかが修道院に入るか棄教しなければならないのだから、このことは誰にも知られるわけにはいかないと言うことだ。もしかして王女には話さない方が良かったのかも。
どひらにしても真名についてもっと知らなければならない。カイルはもっと知っているようだった。離縁した時にどちらかが棄教までしないといけない理由とは何か。それさえわかればなんとかなるのか。それとも、カイルに真名を知られてるってことは他の人とは結婚できないってことなのだろうか。
考え事をしていた私はザッハトルテを三つも食べていて、その日の夕食があまり食べれなかったので母に叱られてしまった。
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