第7話



 グレース王女から連絡があるとすぐに王宮に向かった。早く結果が知りたかったのだ。


「結論から言うと、貴女結婚してたわ」

「えっ? 本当なの?」

「そうよ、これはミスラ教の方にも記録が残っていたから間違いないわ」


 そんな。私の前世の記憶は正しくないってことなの?

確かに彼に振られたのに。あんなことがあったのにカイルと結婚したなんて信じられない。カイルだって婚約解消するって言ってたのに。


「で、でも誰もカイルが結婚してたこと知らないみたいなのは何故かしら」


父も兄も知らないみたいだった。後妻になるわけだから、知っていたら必ずその話が出たはずだ。


「結婚生活は短い間だったみたい。多分だけど貴女が結婚してすぐに亡くなったからだと思うわ」


 私の今の年齢から逆算しても、確かに短い結婚生活だったことがわかる。おそらく盛大な結婚式も行わなかったのだろう。

 私が今世に生まれたのはミスラ歴1972年の水月だから、あの十六歳の誕生日から一年は経っている。てっきり転生するための準備に一年かかるのかと思ってたけど違ったようだ。

 私はその一年の間に何故かカイルと結婚しているということだ。短い期間とはいえ結婚したことをどうして思い出せないのか。それは思い出したくないからではないのか。

考えれば考えるほど謎は深まるばかり。


「ねえ、本当に覚えていないの? 」


グレース王女に聞かれたけれど、結婚の記憶はまるでない。他のことははっきりと思い出せるのに何故かしら。


「ええ、全く記憶にないわ。今まで考えなかったけど、私みたいに前世の記憶を思い出す人っているのかしら」

「もちろんいるわよ。でなければ輪廻転生はここまで信じられてはいないわ」


ミスラ教の教えを思い出せば、確かに私以外にもいてもおかしくない。


「その人に会ってみたいわ。私みたいに記憶がない部分があるのが普通なのか。どうして前世を思い出したのか。聞きたいことがたくさんあるの」


グレース王女はなんでも知っているから私以外に誰か知ってたら教えて欲しいと尋ねる。


「残念だけど、私が知っているのはリリアナだけよ。リリアナみたいに話さない人も多いと思うの。きっと言っても信じてもらえないと思ってる のね」


グレース王女が言うように私も前世の記憶があることは誰にも話すことができなかった。ミスラ教で輪廻転生を認めていても、頭がおかしいと思われるのではないかと言えなかった。

グレース王女に言ったのは、グレース王女に初めて会った時に私を驚かすことができたら、友達になってもいいと言われたからだ。グレース王女を初めて見た時から惹かれていた私は前世の話をしたのだ。どうしても彼女と友達になりたかった。不思議と王女に信じてもらえないのではないかという不安はなかった。

そしてグレース王女は私の前世の話を面白いと言い友達になった。


「王女に話した時は子供だったから話せたのよね。今だったらきっと話していないわ。きっと私以外にもいるのよね。探して見たいわ」

「でもリリアナ。他の人の前世を聞いても何も解決しないわよ。カイル伯爵のことは貴女と彼の問題なのよ」


そうなんだよね。わかっている。逃げてるだけだって。話をしなければいけない。全てを知っているのはカイルだけなのだから。


「わかってる。だけどこの間も話をするために二人で庭で話をしたら、父様と兄様にお叱りを受けたの。二人になるのは無理なのよ。今度同じことをしたら問答無用で結婚させられそうなの」


私がさも嫌そうに言うとクスクスと笑われた。他人事だと思って酷い。怒った顔で見ると、


「わかったわよ。私が二人で話せるようにしてあげる。噂にもならない所をね」


と笑顔で約束してくれた。その笑顔に嫌な気がしたけどこれはチャンスだと思った。二人で話せて噂にならない場所を用意できるのは王女に任せる事にした。私はカイルに何を聞くかを考えて待っていればいい。




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