第44話 カイルside
私は自分が再婚するとは思っていなかった。
それも自分よりずっと若く美しい公爵令嬢だ。
初めにリリアナとの結婚を考えたのは義務感からだった。真名を知っているのだから結婚するしかないなと考えただけで、リリアナがサーシャの生まれ変わりだから結婚したいとかは思わなかった。
リリアナはサーシャとは別人だというのはすぐにわかったし、何よりも彼女はその時まだたったの十歳だったのだ。親子ほども年の離れた娘と結婚するのは勘弁してほしかったが、他に方法がないこともわかっていた。リリアナの方もそう考えるだろうと思っていた。公爵令嬢の結婚は政略結婚がつきもので、そのことは生まれた時から教育されているはずだからだ。けれど十六歳のリリアナは嫌だと言った。何か方法があるかもしれないと言って調べだした。グレース王女がないと言ってもあきらめなかった。仕方がないので私も神殿図書館で真名について調べることに同意した。無駄だと言われてもあきらめない彼女に協力したくなったのだ。今思えばその時から惹かれていたのかもしれない。彼女がサーシャと同じ魂を持っているからではなく、純粋に彼女に惹かれていた。
でもだからこそ私は彼女との結婚に二の足を踏んだ。母がサーシャの死に関わっていたこともあり、彼女が嫌がっているのに結婚を強要したくなかった。私が神殿に入れば、彼女は私ではない男性と結婚して幸せになる。そのことを考えると、とても嫌な気分になるがそれがリリアナの願いなら叶えてあげたいと思った。一大決心だった。自分でも馬鹿なことをしようとしているなと思った。ただ神殿に入れば彼女が他の男と幸せに暮らしている所は見ないで済むのはありがたかった。
ところが私がそのことを告げると、リリアナが急に私と結婚すると言い出した。彼女は私に同情したのだ。そのことはすぐにわかった。でなければあれほど嫌がっていた結婚をするというわけがない。
私は嬉しい気持ちをできるだけ隠して彼女を説得しようとした。でも説得に力が入っていなかったことはグレース王女に見抜かれていた。ニヤニヤと私を見ている目が物語っていた。だがリリアナは私の気持ちにはまるで気づかない。おそらく年齢差から、私はそういう対象ではないのだろう。
「サーシャ、私はリリアナと結婚するよ。情けない話だけど私は彼女にプロポーズすらしてない。そんなことをして逃げられたらいけないからね。でもいつか必ず言うよ」
サーシャの墓前に花を飾りながら私は呟く。彼女が亡くなっていから、私は何かあるとここに来る。返事はないけど、報告すると不思議と落ち着くことが出来る。
「もうカイルは結婚しないのかと思ってた」
後ろから声がした。振り向くとソール・マドリードが立っていた。いつも不機嫌そうな顔で私を睨んでいたのに、穏やかな顔をしている。彼は私を憎んでいるのではなかったのか。
「そのつもりだったんだけどね。これも運命ってやつなのかな」
「サーシャはカイルの結婚を喜んでいる。不幸そうな顔で生きているのを見ていると腹が立ったが、今の顔ならサーシャも喜んでいるだろう」
ソールも花を供えている。
「ソールは私のせいでサーシャが亡くなったことを恨んでいると思っていた」
「まあな。あれはお前の不注意だと今でも思っている。だがサーシャの前では喧嘩はなしだ。一時休戦だ」
一時休戦って、私は戦っているつもりはないが、まあいいか。
「お義父さんたちは元気にしているか?」
サーシャの父には大変お世話になっていたが、サーシャが亡くなってからは引退してしまったので会うことがあまりない。
「毎日孫と一緒に遊んでいるよ。今は釣りにはまっている」
「そうか、元気そうで安心したよ」
サーシャが生きていれば私も一緒に釣りをしていたかもしれないな。きっとソールはつき合わされているに違いない。
「どんな嫁さんをもらったのか気にしていたから今度夫婦で遊びに来るといい」
「夫婦で? いいのだろうか」
きっとリリアナは喜ぶだろう。だが非常識のような気がする。
「サーシャが亡くなって十六年もたつのだから誰も気にしないさ。義父はカイルのことを息子のように思っていたから、君の再婚相手に会いたいんだと思う」
「そうだな。私も会いたいから招待してくれると嬉しい」
いつもソールは怒って私を見ていたから、屋敷を訪ねることが出来ずにいた。許されるのならリリアナと一緒に訪ねることにしよう。リリアナはサーシャではないけどきっと喜んでくれるだろう。
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