第34話
「カイルは母親を糾弾できるかしらね」
グレース王女の言葉に私は首を傾げた。長い間疑っていても何もしなかったのだから糾弾できるかどうか疑わしい。
「もう過去のことなのだからそっとしておいたほうがいいと思うわ」
「まだそんなこと言ってるの? 長い間放っておいて、結局カイルは幸せにはなれなかったでしょ。隠しているほうが不幸なこともあるのよ」
「幸せではない?」
「そうよ。カイルはサーシャのことがなければ再婚だってしていたかもしれないわ」
確かにそうかもしれないと私もずっと思っていた。サーシャは彼のことを思って「生まれ変わっても一緒にはならない」という言葉を残したけど、彼にはサーシャの想いが通じていなかった。ケイトの存在は誤解だったのかもしれない。でなければ、サーシャが死んだらすぐにケイトと再婚したのではないだろうか。
「ケイトはいま何をしているのかしら」
「結婚して幸せに暮らしているわよ」
ケイトが幸せに暮らしていると聞いてホッとした。私には関係ないことかもしれないけど、彼女まで独身だったらやりきれないものがある。
「そう良かった」
「そう思うでしょ? だからリリアナは何も気にしないでカイルの嫁になるのがいいと思うの」
前から思っていたけどグレース王女はどうしても私とカイルを結婚させたいようだ。
「王女はどうして私とカイルを結婚させたいの?」
「それはリリアナに幸せになってもらいたいからよ」
「カイルではなく?」
「カイルはどうでもいいわ。男は一生独身でも困らないもの。リリアナはそういうわけにはいかないでしょ。公爵令嬢としていつかは結婚しなければならない。真名を他の人に知られてるなんてことがばれたらどうなると思うの?」
まだ若いから気にしていなかったけど、縁談は父親が決めるものだ。ある日突然婚約者ができたることだってあるかもしれない。
真名のことが知られたらスキャンダルになってしまうので、グレース王女は心配してくれているのだろう。
「でも、カイルと結婚して私は幸せになれるかしら。私の中にはサーシャとしての記憶もあるの。楽しい思い出もあるけど、嫌な思い出もある。それにカイルとの思い出は私ではなくサーシャとのもので、ピンとこないの」
私がサーシャとしての自分を思い出すのが遅すぎたのだと思う。もっと自我ができる前なら、素直にサーシャとしての自分を受け入れることができたのかもしれない。正直、サーシャを自分の一部だと思えないのだ。だからカイルのことも客観的な目で見てしまう。
「要するに男性として見ることができないってこと?」
「そうなのよ。父親と同じ年齢なのよ。ピンと来なくても仕方がないでしょ」
「そう? カイルは確かに年をとってるけど人気はあるわよ。陛下の友でもあるし、仕事もできて将来も安泰なのよ。その上、顔も悪くなくてスタイルもいいわ。母親も再婚して家にいないからカイルは理想の結婚相手なのよ」
「そうなの?」
カイルが理想の結婚相手だとは知らなかった。みんな男性の年齢は気にならないらしい。
「うかうかしていると盗られるわよ」
どうぞと言おうとしてやめた。真名の問題が解決しない限りどうぞと譲ることは出来ない。
「ねえ、本当にカイルと結婚するしか方法はないの? 王女は何か知っていないの?」
物知りのグレース王女のことだから本当は知っているのではないかと思って聞いてみる。するとグレース王女は呆れた顔で私を見る。
「知ってて、隠すわけないでしょ。のんきな顔していると思ったらそんなこと考えていたのね」
「えっ? 隠してないの? 本当に?」
「こんな大事なことで嘘なんてつかないわよ。もうリリアナってば信じられないわ」
困ったわ。いつものことで、グレース王女は答えを知っているのだと思っていた。まさか解決策がないとは考えてなかった。このままだとカイルと結婚するしかないみたい。
カイルがすごく嫌な奴なら、結婚してもよかったと言ったらグレース王女はまた呆れるだろうか。長い間サーシャを忘れなかったカイルは良いひとだから、悪い気がする。
真名が知られているのはお互い様だから、私だけがカイルに負担をかけるわけではないけど躊躇してしまう。
もし結婚してから手がかりが掴めたら? 何か方法があるかもしれないのにカイルに結婚を押し付けるのは間違っている。
「もう少しだけ、調べてみるわ。まだ時間はあるでしょ?」
「時間はあるけど、無駄だと思うわよ」
グレース王女がないと言ってるのに調べようとする私は間違っているのかもしれない。それでも結婚は一生のことなのだから、あがいてみたいのだ。
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