第41話 カイルside

決死の覚悟で神殿入りを決めたというのに、次の日にはリリアナとの結婚が決まっていた。私との結婚をあれほど嫌がっていたのにどうしたことか。おそらく私に対する同情からだろうと推測する。神殿入りすることを彼女の話したのは間違いだったかもしれない。

 しかもグレース王女がいたために、陛下にすぐに知られ後戻りはできない状況になってしまった。私の方は構わないが、リリアナは本当に後悔しないのだろうか。

 二度目の結婚も勢いに流されて決まってしまった。一度目の結婚の時の失敗を繰り返さないように、時間をかけて運びたかったが、陛下とグレース王女が許してくれそうにない。このままではあっという間に結婚の日取りまで決まってしまいそうだ。


「リリアナ、君は学校に通っているがすぐに結婚ということになれば辞めなくてはならないがどうする?」


 私が尋ねるとリリアナは首を傾げた。


「そのことは考えておりませんでした。どうしましょう」


 その答えでリリアナもこの結婚を急に決めたことが分かった。私の神殿入りを阻止するために犠牲になってしまった。


「せめて結婚は学校を出てからにしようか?」

「昨日の陛下のご様子では無理な気がします」


 陛下は私の結婚をものすごく喜んでくれた。いつまでも再婚しない私のことをずっと気にかけてくれていたのだろう。

 だが結婚の日取りまで陛下に決めてもらうつもりはない。


「陛下には私の方から話をするから大丈夫だ」

「いえ、そうではなくて、陛下は昨日のうちに、もう父にも手を回されているので無理だと思いますよ」

「え? それは困ったな。彼は一度決めたら何事も早く済ませるところがあるから」

「ええ、貴方が再婚だから派手な式はしない方がいいだろうと言ってました」

「君はそれでいいのかい?」


 私は派手な結婚式は好きではないが、リリアナにとっては初めての結婚式なのに神殿で質素にするのはどうだろうか。サーシャとの時も急いでいたから、派手な結婚式は出来なかった。二度も質素な結婚式でいいのだろうか。


「構いませんわ。派手なのは苦手ですから」


 リリアナは公爵令嬢にしては地味なドレスを着ているが、彼女の趣味だったらしい。地味とは言っても見る人が見ればとても高価なドレスなのはわかる。派手さはないがレースと刺繍が見事な出来だ。


「学校はどうする? 」

「結婚が決まればやめることになるけど、仕方ありませんわ」


リリアナが学校に通うのを楽しんでいることを知っているので、中途半端な時期に辞めなければならない事が残念で仕方がない。リリアナはサーシャと違って健康だから結婚を急ぐ必要はない。


「私は確かに君より歳が上だが、君が学校に通う間くらい待てるよ。君の父親には私が話すよ」


リリアナは私の言葉に微笑んだ。やはり学校には通いたかったのだろう。私は彼女の笑顔を見て必ず彼女の父親を説得しなければと思った。


「もし通う事が出来るのなら嬉しいですが、無理はなさらないでください。貴族の女性は結婚が決まって途中でやめるかたが多いのです。わたくしも最後まで通えるのは無理かもしれないと思っていましたから」


女性の結婚適齢期が早いことから、どうしても最後まで通う事ができなくなる。結婚してからも学校に通えるようにするのが一番良いが、女性の場合は妊娠や出産があるから難しい。

今まで子供が欲しいと思ったことはなかったが、リリアナが学校を卒業してから産むとなると孫がいてもおかしくない年齢になる。それを考えると頭が痛くなるが、こればかりは仕方のない事だ。

リリアナに似た子供を想像すると楽しくなる。


「どうかしましたか?」


私が一人で楽しんでいるとリリアナが不思議そうな顔をしている。


「いやリリアナの子供は可愛いだろうなと思って.....」


私の言葉にリリアナの頬が赤く染まる。


「カイル様、気が早すぎです」


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