第23話
私は表面上はいつもと変わらない生活を送っていた。
でも、どこにいてもカイルがいないか探していた。いったい調べはどうなったのか気になって仕方がない。カイルとは気軽に連絡できる仲ではないので、彼のほうから連絡があるのを待つことしかできない。
いつものようにグレース王女と話をしていた時、カイルのことが話題になった。
「カイルだが、神殿図書館に入り浸っているそうよ。確かに真名について調べているようね。無駄だと思うけど、あそこには変わった書物もあるでしょうから楽しむことは出来そうね」
「楽しむって、王女は本当に何も見つからないと思っているのですか?」
「この間も言ったでしょう。無駄な行為だと」
確かにそう聞いてはいたけど、私はまだ諦めてはいなかった。
「今日の夜会には出席するの?」
突然、違うことを聞かれて戸惑った。今日の夜会というのは、デビュタントも兼ねている。私は先月に済ませている。今日は伯爵家の十六歳になった令嬢が社交界にデビューするのだ。
「ええ、そのつもりよ。同じ年齢の人たちのデビュタントだから、見ておかないとね」
「そう。わたくしも出席するから、また会えるわね」
「ブラットン伯爵家の令嬢はとても美しいと聞いてるから今から楽しみよ」
「ブラットン伯爵家? 確かに美しいけれど高慢なのが顔に現れていたわ。それよりもマドリード伯爵家の令嬢の方が可愛らしいわ」
「マドリード? もしかしてソールの娘なの?」
「ええ、ソール・マドリード伯爵の娘よ」
ソールは私がカイルと結婚した後にすぐにマドリード伯爵家の養子に入ったとグレース王女から聞いていた。私はその話を聞いたときホッとした。私は自分が死んだ後のマドリード伯爵家のことは調べようとしていなかったが、それはやせ我慢で本当は気になっていたのかもしれない。カイルほどには鮮明に思い出すことはないけれど、やはり前世での家族なのだから幸せでいてほしい。
「そう、会うのが楽しみだわ。きっとソールにも会えるのね」
「わかっているとは思うけど、初対面なのだから変なことは言ってはダメよ」
グレース王女の忠告に舌を出して頷く。サーシャにとってソールは兄のような存在だったけれど、リリアナは初対面になるのだから気をつけなくてはならない。
「挨拶くらいできるかしら」
「どうかしら。難しいかもね。ミラー公爵家とマドリード伯爵家は接点がないでしょう」
王女の言うように、まったくと言っていいほど接点がない。だからグレース王女が私の過去を調べてくれるまで、ソールが養子に入ったことさえ知らなかったのだ。
「仕方がないわね。今日は遠くから眺めることにするわ」
でもいつか話ができるくらい親しくなって、家に呼んでもらえるようになろうと思った。前世で育った伯爵家の屋敷を目にしたい。もう十六年も経っているのだから、きっと変わっているだろうけど。
「わたくしの傍にいるといいわ。挨拶に来るだろうから紹介くらいするわよ」
とてもありがたい話だけれど、グレース王女の傍にずっといるのは遠慮したい。公爵令嬢である私が王女の傍にいることはおかしなことではない。ただものすごく嫉妬されるので、夜会では避けるようにしていた。女同士の嫉妬は醜いものが多いからね。
「夜までに考えてみるわ」
「もう、リリアナは公爵令嬢なのよ。それもミラー公爵家は王族の血だって入ってる由緒正しい家柄で、わたくしの傍に立つのが当たり前の存在なの。ほかの方々に遠慮なんてしないでほしいわ」
グレース王女は以前から私が遠慮するのが許せなかったようだ。十歳までの私はグレース王女の傍にいることが当たり前だと思っていた。誰にもその場所を譲るつもりがないほど傲慢な性格をしていた。カイルに会って前世を思い出したときに、何もかもが変わってしまった。母に言わせるととても思いやりがある性格に変わったらしい。
前世を知ってもリリアナはリリアナで、サーシャは自分ではないと思っているけど、確かに影響されたのかもしれない。伯爵令嬢としての記憶が、時として邪魔をすることもある。
「わかったわ。今日の夜会は傍を離れたりしないわ」
私が宣言すると、グレース王女は嬉しそうにほほ笑んだ。
「約束ですからね。もし破ったら私の言うことをなんでも聞いていただくわ」
こういう時の王女はとても傲慢な顔になる。そして返事は一つしかないのだ。
「はいはい。破るようなことになったら、なんでもいうことを聞くわ」
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