第15話
「よくわかりました。何故わたくしたちが結婚したか。結局、同情で結婚したと言うことでしょうか」
「何を聞いていたのですか? 私はサーシャが好きだった。結婚したいと思ったから結婚した。同情なんかではないですよ」
カイル伯爵の話では確かにサーシャを好きだから結婚したように聞こえる。でも私の頭の中にある彼はサーシャを疎んじていたあの最後の姿しか思い浮かばない。これ以上話を聞くのは危険な気がした。ここまで詳しく聞くことはない。箇条書きにした事実だけ聞くことにしよう。
「君と父親を説得するのは時間がかかった。特に君は今も言ったように同情されるのは嫌だとなかなか頷いてはくれなかった。それでもなんとか説得して夏になる頃には結婚できた。婚約期間が一年いるという君の父親を説得したのは君だ。もう十分婚約期間はあったと言ってね」
「それでわたくしたちは思ったよりも早く結婚したのですね」
「君は私と王都にある屋敷で結婚生活を送ることになった。本当なら田舎の方がいいのだろうが、私の仕事の関係で仕方がなかった」
「王都にある屋敷?」
「父が亡くなった時に手放していたが、君の父上が買い取って結婚プレゼントだとくれたんだ。執事もハウスキーパーも昔のままだった。私の母もとても喜んだ。君と母はとても仲が良くて、私が間に入れないことさえあった」
彼の話はとりとめがない。きっと話したくないことを隠しているからだと思った。カイルの母のことはあまり覚えていない。私の記憶の中の彼女はとても印象が薄いのだ。幼い頃からカイルの婚約者だったから仲良くしていたのは確かで、彼女がカイルの部屋の鍵を貸してくれたことも覚えている。そうだ、彼女が私にカイルのアパートに訪ねていけばいいと背中を押してくれたんだった。私の誕生日の日はカイルは仕事だと教えてくれたのも彼女だった。私がどうしてもカイルと会いたがっているのを見かねて親切にも手助けしてくれたのだ。カイルとは最後の別れのために会うのだということは言えなかったけれど、彼女にはとても感謝した。とても優しい人だった。それなのにどうして顔が思い出せないのだろう。私ではないサーシャの記憶だからだろうか。重要ではない人の顔は薄い気がする。
「でも確か五年は生きられると言っていたのにどうしてわたくしは結婚してから数ヶ月で亡くなったのですか? 医術の先生の診立て違いですか?」
私が一番気になっていたことを尋ねた。カイルの顔は青ざめている。サーシャが亡くなったのは昔のことなのに。
「いつものように熱が高くなって、心臓がもたなかった。すごく突然のことだった」
「それだけではないのでしょう? 貴方は何かを隠しているわ」
それだけで青ざめるとは思えない。私の死は彼が青ざめるような酷いことだったのか。
「君は私が帰った時どこにもいなかった。突然いなくなったとみんなが探していた。誰かがどこかに出て行ったのではないかと言い。私もそんな気がしていた。もしかしたら実家に帰ったのではないかと思った。だがそんなことはないと庭師のワンダが言った。あの日は花の植え替えでたった一つの門の前にずっといたが奥様は通らなかったと証言した。それでもう一度隅から隅まで探すことになった」
「わたくしはどこにいたの?」
「ワインを置いてある地下にある部屋に閉じ込められていた。鍵がかけられていた」
「どうして最初に探した時は見つからなかったの?」
「それはハウスキーパーだったメルがそこは見たと言ったからだと執事が言っていた」
「ではわたくしはハウスキーパーに閉じ込められたということなのね」
「いや、それがわからないんだ。君は誰に閉じ込められたかは言わないで亡くなってしまい。そのハウスキーパーは失踪してしまった。だが逃げ出したということは罪を認めたのだと思う」
「どうして隠そうとしたの?」
「これは誰にも言っていないからだ。閉じ込められたことが原因だとはマドリード伯爵にも言ってないことだ」
「何故?」
「君が望んだからだ。死ぬ前にただ熱を出して亡くなったことにしてほしいいと」
サーシャは本当にカイルを愛していたんだなと思った。死んだ後の彼の評判まで気にするなんて私にはできそうにない。サーシャは私の前世だけどやっぱり私とは違うと思うのはこんな時だ。彼女のようにはなれない。そこまで人を愛するなんてできない
「そう。他には何か言った?」
それは何気ない質問だった。でもカイルはとても動揺した。聞いてはいけない質問だっただろうか。長い沈黙が続いてどうしようかなと考えているとカイルが口を開いた。
「生まれ変わっても……」
「え?」
声が小さくてよく聞こえないので聞き返す。
「生まれ変わっても一緒にはならないって言うのが最後の言葉だった」
これには驚いた。てっきり生まれ変わっても一緒にと言ったのかと思った。これはどう考えればいいのか。サーシャがカイルを愛していたことは確かなのに、どうして最後の最後にあんなことを言ったのだろうか。
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