第10話(part2) 「私はリクの姉よ!」「勘弁してくれ」

 こうなってしまったら彼女の意思は固く、それを曲げるのはそこそこの討論と根性を重ねることになる。

 それは短いながらも同棲してきた中だ。ここで討論を重ねたところで、きちんとした説得材料を持ってこないとアンが簡単に折れないことがないことは、リクが一番理解しているつもりだ。


 それならば流されて、やるほうがいいか……。


「そうだな。とりあえずやってみるのはありか」

「……リク」


 アンはいつもの微笑んだ表情から一瞬真顔をのぞかせる。


「なんだ?」

「今日はなんだか実験に乗り気じゃないのね」

「そう見えるか? 俺はいつだって実験はしたいと思っているぞ」

「そう?」

「ああもちろんだ」


 リクのその返答に、アンは再び真顔になりつつ考え事をしているそぶりを見せる。

「どうした?」

「……それは一種の変態発言だと受け取っていいのかしら」

「その発想はおかしいと思うぞ」


 リクはいつだって実験をしたいと思っている。それは本心だ。だってその目的は恋愛感情が何たるかを知ることなのだから。それを人ではないアンドロイドが知るためには、シュミレーションと実験を重ねるしかないのだ。


「とりあえずやってみるか」

「そうね」


 そう決定した直後、急にアンが四つん這いになってこちらに迫ってきた。


「ま、待て待て」

「何かしら?」


 ワンピースの隙間から胸元をちらつかせたまま、アンはその場で動きを止める。


「アンが俺を襲うのか?」

「襲うのではないわ。床ドンよ」

「そう大差ないと思うが……。それはいいとして、この間も言ったが普通逆じゃないのか?」

「いいのよ」

「……いいのか」


 リクはアンの謎の気迫に押し切られて納得してしまった。それを見たアンは再び行動を再開させる。


「俺はどうすればいい?」

「あら、そのままでいいわよ」


 リクはそう言われ胡坐をかいたままの状態を維持した。

 なるべく平静を装っていはいたが、実際のところ変な緊張感を感じているのは確かだった。


 それはアンも同じなのか、部屋の中は緊張しながらも居心地の悪くない、そんな和やかな緊張感が漂っていた。


 そして四つん這いで近づいてきたアンは、そのままリクの目の前まで来ると肩に片手をかけた。


 その直後、リビングにインターホンの音が鳴り響く。


「……あら、誰かしら?」

「お隣さんか?」

「それくらいしか思いつかないけれど」


 二人の間に緊張が走る。そこに先ほどまでの和やかな雰囲気などあるわけもなく、それが部屋全体に伝わり、部屋はピンと張りつめた空気で満ちる。

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