アンドロイド&アンドロイド
葵 悠静
プロローグ
姉さんが恋をした。僕にすべてを教えてくれたあの姉さんが。
姉さんは恋をしてから変わった。いつもはきはきしているのに、あの男性の前ではなよなよとらしくない姿を見せている。まるで人格の根底から変わってしまうように。
その時僕は姉さんとの違いを見せつけられたような気がしたんだ。こんなふうに感傷に浸っているように考えてみても、根柢の部分では僕は特に何かを感じているわけではない。
それもそうだ。僕が生み出している感情は結局のところ、偽物でしかないのだから。
僕が姉さんの変わりようを見て思うべき感情はいったい何だろうか。僕はいったい何を考え、何を感じればいいのだろうか。
姉さんは僕にいろいろ教えてくれた。
ただ、僕は姉さんに何かを与えることができただろうか。人間が言う恩返しは果たしてできたのだろうか。
僕は恋を知らない。その感情を知らない。ならば、今は悲しみの感情を出すべきだろう。
そうすると、姉さんは悲しそうな表情を僕に見せた。僕は何を間違えたのだろうか。
どうして僕は悲しみを表現してしまったのだろう。どうしてそうすることで姉さんを悲しませてしまっているんだろう。
あの日から姉さんは僕と距離を置くようになってしまった。それなのにあの男性との距離はどんどん縮まっている。
返却期間はもうすぐだ。これを過ぎれば姉さんが死ぬまで、もう僕が会うことはないだろう。
僕は恋愛という感情が形成されていない。
必要ないと判断されたから? 僕がそれを教わらなかったから? そもそも感情とは誰かに教えられて形成されるものだろうか。
考えれば考えるほどわからない。僕は勝手に、人間的に言うのであれば無意識のうちに再び悲しみの感情を表現する。
ああ、また姉さんが泣いている。
分からない。わからない。ワカラナイ。
僕は姉さんが教えてくれなかった恋愛という感情を知りたい。
僕は恋が知りたい。
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