第7話(part3)「これが壁ドンというやつね」「俺は危機的状況に立たされている」
アンは俺のほうに顔を向けたまま、机の横から回り込みながらじりじりと詰め寄ってくる。
「アン、どうしたんだ?」
「いいからそのままじっとしていてくれるかしら?」
テレビからはパン! という乾いた音が聞こえてくるが、テレビに目を向けられるほど今のリクには余裕がなかった。
「アン? おかしくないか?」
じっとしていろといわれても、もはや恐怖すら感じるそのアンの様子からリクは座ったまま後ずさりを始めていた。
「逃げられると困るんだけれど」
ドラマを見てから絶対にどこか様子がおかしいアンは、どんどん陸との距離を詰めてくる。
もちろんリクの後ずさりするスピードもどんどん早くなっていく。
「どうしたんだ、落ち着け」
「私は自分でもびっくりするくらい落ち着いているけど」
「なんでだ!」
「さあ、どうしてかしらね」
いつの間にかリクは壁際まで追い詰められていた。しかし相も変わらずアンは四つん這いの状態で、服の隙間から鎖骨が見え隠れしているのも構わずに迫ってきている。
汗をかくことがないはずのリクが、体が服に張り付いているような、まるで汗のせいで体がじっとりしているような錯覚を覚えていた。
そんな時ついに背中に冷たい感覚を感じ、壁に追い詰められてたことに気づく。逃げ場のないリクはそのままじりじりとゆっくりと立ち上がる。
アンから逃げるように。しかしここまで来てアンが逃がしてくれるわけがない。
アンは不敵な笑みを浮かべながら、リクと同じようにゆっくりと立ち上がる。
「もう逃げられないわね。全くどうしてそんなに逃げるのかしら」
アンはリクと体がぴったりと密着しそうなほどに近づく。
リクはもはや逃げることを諦めて、ただ成り行きに身を任せていた。
タイミング的に奇跡か問題の発端となった再放送ドラマのエンディングが流れており、その主題歌がまるで今の状況にBGMがついているドラマのような雰囲気になっていた。
「アン……」
次の瞬間、リクの顔の横に恐ろしいほどの勢いで壁に手を突き立てた。
部屋にはテレビの音が流れているはずなのに、大音量でドン! という音がむなしく響いた。
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