同棲編

第7話(part1)「これが壁ドンというやつね」「俺は危機的状況に立たされている」

「どう、ドキドキしているのかしら?」

「ああ、違う意味で激しくドキドキしているようだ」

 昼下がり、アンのいたずら心がにじみ出ているような微笑が今リクの目の前にまで迫っていた。


 後ろは壁、横に転がり逃げようにも彼女の腕が伸びていて逃げられそうにもない。 

 要するにリクは今、壁ドンをされているのだ。そしてなぜか生命的危機を感じている。


 こんな状況に至るまである程度の経緯があった……わけでもないが、リクは自分がどうしてこんな状況になったのか今一度考えてみることにした。

 ……アンはいまだにこの状況を楽しんでいるようにも見えたが。



 今日は珍しく二人とも大学にもいかなくていい日、つまるところ休みだった。だからといって二人して特にどこに行くわけでもなくただリビングでだらだらと過ごしていた。


 いや、だらだらというには少し語弊があるのかもしれない。

「だからもっと関係を進展させるような出来事をだな」

「そんなことをしたところで何かが変わるとは到底思えないわ。何か大きなことを成し遂げることに意味があるのではないかしら」

「しかし、それをどうやって引き起こすというのだ」

「それが分かれば今こうやって二人で座って話しているという状況は生まれないでしょうね」

「だから何かほかに問題とかきっかけがあるんじゃないかと思うわけだ」

「それはないわ」

「そう断言されるとな……」


 朝から昼過ぎまでこんな堂々巡りを繰り返していたのだ。


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