第3話(part2)「引っ越しをしましょう」「一緒に寝よう」

 玄関には所狭しと置かれた機械のパーツが置かれてあった。


「これ……メンテナンスパーツか?」

「そうです。気が付いたらこんなに多くなっていました」

「さすが女性だな……。俺は子袋に収まるくらいの工具しかないというのに」

「誉め言葉として受け取っておきます」


 アンは自分のリュックに向かって悲しそうな視線を送るリクの言葉を受け流しながら、一番重量があるであろう電話ボックスの形に似た機械を軽々と持ち上げた。

 リクもはっとしたように視線を目の前の大量のパーツに目を移すと、アンに続き彼女が持っている物よりは一回り小さいパーツを持ち上げた。


「ちなみにこれはいったい何なんだ」

「私が持っているのが『全身肌質保湿装置』です。先輩が持っているのは『髪質向上装置』です」

「髪質向上装置……。初めて聞いたな。こんな毎日全身メンテナンスしていたら、相当な時間がかかるんじゃないか?」

「過去一番時間がかかった時は、メンテナンスだけで一日を費やしたことがあります。まあその時はこの装置達に慣れてなくて手間取ったのもありましたが。今でしたら一時間あれば終わりますよ」

「一時間……。俺は十分で終わるぞ」

「先輩はもっとメンテナンスにこだわってください」


 そんな会話をしながら、二人は着々と大量の機械をリビングに運び込んでいた。

 玄関にあった機械を運び終えるころには、リビングの半分を様々な装置が場所を占領していた。


「さてそれでは荷物をそれぞれの寝室に運びましょうか」

 リビングを挟むように向かい通しである部屋を寝室だととらえたアンの発言だったが、リクはそれに何か違和感を覚えたのか再びあごに手を当て始めた。


「どうかしたんですか」

「いや、小説で呼んだんだことがある。仲のいい夫婦ほど同じ寝室で寝ていると」

「同じ寝室ですか? でも私たちは夫婦関係ではありませんよ」

「そうなんだが、実験の一環としてはやってみる価値はあるとは思わないか?」 

 アンはリクの言葉を受け、何かを考えているのか動きを一瞬止めた。


「確かに実験の一環といわれれば反論することはできないんですが、メンテナンス姿を見られるというのは……」

「恥ずかしいのか?」

 リクがさも不思議そうにそう尋ねる。


「恥ずかしいとはちょっと違うのですが……先輩は嫌じゃないんですか? メンテナンス姿を誰かに見られるのは」

「俺はそんなことないぞ。どこだってメンテナンスできる」


 リクはそう言いながらリュックを置いている場所まで移動し、小さな袋を取り出しその中から先端が細く、曲がっている工具を取り出した。


 そして何の躊躇もなくそれを自分の右腕に突き刺すと、工具をそのまま軽く回し右腕を取り外し始めたのだ。


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