第3話(part1)「引っ越しをしましょう」「一緒に寝よう」
勢いよく二人してマンションに入った二人だったが、荷物だらけの玄関を通り抜けたリクとアンは、マンションのリビングで棒立ちで立ち尽くしていた。
「どうしようか」
「引っ越しをしましょう」
そう言いながらもアンはその場を動こうとはしない。
二人とも引っ越しの情報は頭に入っているものの、実体験はしたことがないため何から始めればいいのかわからないのだ。
そんな困った状況に直面し、リクは何度もあごに手を当てて何かを考えるそぶりを見せていたが、この状況を打開する解決案はいつまでたってもでてきそうになかった。
そんなリクとは違い、アンはただただ冷静さを兼ね備えた微笑みを携えながら、その場にただただ立ち尽くしていた。
「とりあえず……荷物を入れようか」
「そうですね。先輩の荷物は?」
「俺は実を言うとこれだけなんだ」
リクは背負っているリュックを強調するように、揺らして見せた。
「先輩の引っ越し終わりましたね」
「……ああ、そうだな」
そして再びリビングに流れる奇妙な沈黙。このまま一日が過ぎてしまうのではないかと錯覚してしまうほど、それは長い沈黙だった。
「先輩自身の引っ越しが終わったのであれば、私の引っ越しを付き合ってもらってもいいですか」
沈黙を破り唐突にそう発言したのは、アンだった。
「初めての共同作業。というわけですね」
「ああ、人が結婚するときにあげる奇妙な風習だな。それを真似てみるのも実験の一環かもな」
リクもアンのボケともとれるその発言をまじめに返すと、リュックを足元に置いた。
「それじゃ、始めるとするか」
「そうですね。よろしくお願いします」
そうして二人は大した会話を交わすこともなくアンの荷物が置かれているであろう玄関へと向かった。
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