第2話(part3)「大切に育てられました」「解体されまくってたな」
「それにしても先輩は服にこだわりはないんですね」
「そうだな」
アンに言われてはリクは羽織っているジャケットをつまんでみたが、服は基本重ね着でジーパンだ。確かにおしゃれにこだわっているとは言えないだろう。
それに比べてアンは白い春物の薄めの服を着てロングスカートをはいている。
自分の長い髪まで考慮して、そのような服を選んでいるのだろう。
「……髪切ってみるか」
「急にどうしたんですか」
「いや、やっぱり後ろが長いかと思ってな」
リクはほかのアンドロイドと比べると、極端に襟足が長い。リクはそわそわしながら 自分の襟足を触っていた。
「そのままでもいいんじゃないですか?」
「そうか?」
「ほかのアンドロイドとの区別もつきやすいですし」
「そういうところでか」
リクは少し悲しそうな表情を浮かべると、軽く頭を掻いてから前方を見た。
いつの間にか景色は大きく変わり、人と車が多く行き交う道路から住宅街になっていた。
まだ昼だからだろう、住宅街は先程までの人通りの多さはなくなっていて、まばらにのんびりと歩いている人だけになっていた。
「そろそろか?」
「あそこのマンションですかね 」
アンは住宅街の中でもあたまが飛び抜けて一際目立っている大きなマンションを指さした。
「ついたらまず何がしたい?」
「まずは引越し作業をすることが先決じゃないでしょうか」
「……そうだな」
ふたりは相性がいいのか悪いのか、歩幅をきっちりと合わせて歩きながら、噛み合わない会話を繰り返していた。
マンションの玄関前にたどり着くと、ふたりは自然とそこで足を止めていた。
マンショは一般マンションと変わらなかったが、ほかのマンションと比べて縦に長いように見えた。
ふたりは同時にそれを見上げて軽く息を吐く。
その行為にどんな意味が込められているのかは分からなかったが、ため息の意味はそれぞれ違うものだった。
「今後に期待だな」
「不安です。この5年間、私なりに恋愛感情を探ってきたつもりでしたが、全くわかりませんでした。こんな些細な変化で自分は恋愛を理解できるのでしょうか」
「それは俺も同感だよ」
「そういえばあなたの願望も……」
「俺は恋を知りたい」
リクは真剣な表情でアンの顔をまっすぐ見据えて、はっきりとそういった。
「私もです」
アンもリクのその意志に答えるようにその目をまっすぐと見つめ返した。
「だから恋愛のことだけを考えられる今からの時間に期待しているんだ 」
「それはそうですが……」
「もちろん不安だってある。でもこれは俺にとってのチャンスなんだ。恋を知るためのチャンス。それを女性らしい君とつかめるかもしれないと思ったら、期待しても仕方ないだろう?」
「それは本心ですか?」
「もちろん」
リクはその顔に笑みを浮かべたが、それは決して嘲笑の笑みではなくアンのことを肯定するかのような笑みに思えた。
「あなたは不思議な人ですね。実に人間らしい」
アンはリクの言葉を受けて微笑みを強くして見せる。
「それは俺にとって、いや全アンドロイドにとって最高の褒め言葉だよ」
リクはそういって、マンションの自動ドアをくぐった。
それに続くようにアンも自動ドアをくぐった。
2話 完
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