第9話(part3)「ちょっとこれ見て可愛い!」「この盆栽の方が可愛いですよ」
「ごめんね、急に~! 今大丈夫だった?」
扉を開けた先にいたのは、手に鍋を抱えたお隣さんだった。
「仲井凜さんですよね」
「凜でいいわよ~。それよりもどうしたの? そんなに身構えて」
アンは凜にそう言われて初めて全身の緊張を緩めた。
「いや、不審者かと思ったので思わず」
「不審者はインターホン鳴らさないわよ」
凜はさもおかしそうに笑いながら、鍋のふたを開けた。
「それは?」
「ああ、さっき暇だったから料理を作ってたんだけど、しんちゃん今日は飲み会で帰ってこないとかいうから……よかったらどうかなと思って」
「私にですか?」
「そう、ちゃんと食べてるの?」
「いえ、私たちに食事は必要ないので」
「それでも食事はしないと! アンドロイドだとか人間だとかは関係ないわ。生きている限り食事は必要不可欠なのよ」
凜は鍋を持つ手に力を込めながら、何やら力説を始めた。本当にお隣さんである凜は不思議な人だ。アンドロイドが隣だと嫌悪感を示す人も少なくない。
それなのに、ここまで人と同等に扱ってくれるのはかなり珍しいのだ。
「それじゃ、今リクもいないのでよかったらあがっていきますか?」
「え、いいの~? それじゃあお邪魔しようかしら!」
凜はそう言って目を輝かせながら、リビングに戻るアンの後をついてきた。
そしてリビングに入った瞬間アンは思い出した。自分が機械をばらしている最中だということに。
「あら、これは?」
「すぐに片付けます!」
アンは耳を赤く染めながら焦った様子で、床にばらまかれている機械の部品を大元の機械の中に投げ込み、そのままそれを持ち上げて自分の部屋に投げるかのように片付けた。
「あらあら気にしなくていいのに」
「いえ、あんな汚いところを見られてお恥ずかしい限りです」
「そんなことないわよ。うちなんてもっと汚いもの」
アンは凜に座るように机の前に手を差し出すと、凜は笑って首を振りながらキッチンのほうに向かった。
「ちょっと借りるわね」
「はい、どうぞ。といっても調理器具はほとんどないのですが」
「いいのいいの。お皿とお箸があれば大丈夫」
そういって凜さんは体を揺らしながら鍋に火をかけ、箸でその中身をかき混ぜ始めた。
そして数分後にはアンと凜の前に二つの皿が並べられていて、その上にはもうもうと湯気をあげる肉じゃがが山盛りにつがれていた。
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