第4話(part2)「敬語をやめないか」「あなたの方が2か月先輩です」

 しかしそんな二人の沈黙はすぐに終わりを見せた。リビングに響くアナウンサーの無感情な声を遮るようにリクがあごに手を当てながら呻き始めたのだ。


「どうかしたんですか?」

「いや、距離感を感じるなと思って」

「距離感?」

 アンはそう言いながら髪を触りながら考えるそぶりを見せ、立ち上がった。


「どうした?」

 リクの問いかけにも答えずアンはリクの隣に来るとそのまま正座で座った。

「……なにやっているんだ?」

「距離感はだいぶ縮まったと思うんですが」

「いや、そういうことじゃなくてだな。会話をしている中で距離感を覚えるということだ」

 リクは軽く頭を掻きながら立ち上がると、先ほどまでアンが座っていた場所に移動しあぐらをかき、二人は再び向き合うような形に戻った。


「ああ、そういうことだったんですね。どんな距離感を感じるんですか?」

 アンはリクが移動したことには特に言及せずに、微笑みを携えたままリクにそう質問した。


「引っ越しの時から気になっていたんだが、どうして君は俺に対して敬語なんだ?」

「私より先輩ですから」

 リクはアンにそう言われて、ルンバ研究長に見せてもらったアンに関する資料を思い返す。


「先輩といっても、製造月はそんなに変わらなかったような気がするんだが」

「ええ、二か月しか変わりません」

 アンは足を崩しそのまま上半身を反転させると背中まで流れている黒髪を右手で持ち上げた。 


 色気すら感じるようなアンのうなじのすぐ下には『06Z37F』と皮膚に刻み込まれていた。

「2037年12月6日……。製造年は一緒じゃないか」

「それでも先輩のほうが先に生まれたことには違いありません」

 アンは髪を整えながら体の向きを直し再びリクと向かい合った。


「しかし敬語だと恋人と同じような距離感を築けないし、敬語はやめにしないか」

「それもそうなのですが、先輩に対して敬語を使わないというのは気が引けるといいますか……」


「気が引ける?」   

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