第2話(part1)「大切に育てられました」「解体されまくってたな」

 太陽がさんさんと地面を照りつけているにもかかわらず、周りの空気は春特有の程よい暖かさに包まれていた。

 そんな暖かい日差しに照らされながら、隣のアンは穏やかな微笑みをその顔に浮かべながら立っていた。


 後ろには二年間住み続けていた大学の校門が堂々と構えている。

「まるで実家を出るときの気分のようだな」

「それに近いかもしれませんね」

 アンとリクは堅苦しくも感じられる会話をしていた。そもそもリクは小さな小包を手に持っていたが、アンの手には何も握られていなかった。


「引っ越しに持っていくものは何もないのか?」

「先に郵送してもらっています」

「ああ、そうだったのか」

「先輩は?」


「……ん? 先輩?」

「はい、先輩ですが」

 リクがぽかんとした表情をしているのと同時に、アンもそんな表情を浮かべる彼を不思議そうに見つめていた。


「どうして先輩なんだ?」

「製造日が先輩のほうが先なので」

「……そうか」

 製造日はそんなに差はなかったような気がするが……。


 そんなことを思いながらも、特に気にすることはなくアンの言いきって満足しているようにも見える表情を眺めた。

「それじゃ新居に行くことにしましょうか」

「そうだな。俺たちの新居に向かうとするか」


 アンはリクからの同意を確認すると、軽く頷き目の前に広がる明るい歩道をさっさと歩き始めた。

 リクもきびきびと歩くアンの後を追うように速足で歩き出した。

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