第8話(part2)「これはどういう状況だ?」「仕方なくよ」
無意味な時間はいつまでも続いてるように感じる。リクはいつまでアンの盆栽を手入れする作業を眺めていただろうか。
どれだけ眺めていても、アンはその作業をいつまでも飽きることなく楽しそうにやっている。
おかしい。さっきから目の前がぼやける。何か体に異常をきたしているのだろうか。
「メンテナンスするか……」
「なにかあったの?」
「目の前がかすむんだ」
「それは大変ね」
アンは一瞬盆栽にやっていた手を止めて、リクの目を覗き込むように机に手をついて前のめりになった。
着ていたワンピースの前がはだけて、真っ白な肌が見え隠れするがリクはそんなことを気にすることもなく、目を閉じながら目頭を押さえていた。
「目を閉じていたらよく見えないわ」
「そういわれてもな」
リクは半ばいやいや目から指を離し、目を見開いた。すると眼前までアンの顔が近寄ってきていた。
「うお」
「なによ、顔を見て失礼ね」
リクは超至近距離にアンの顔があったことに素直に驚きを現してしまい、体をのけぞってしまったのだ。
「悪いな」
「別にいいわ。それにしても特に異常があるようには見えないわね」
「そうか、ならいいんだ」
リクのその言葉を聞き納得したのか、アンは再び姿勢を正し盆栽作業へと戻った。
リクは再びそんなアンの様子を特に意味もなくながめる。思考することもなく、ただこういう無意味な時間を過ごすのはいったいいつぶりだろうか。
相手が人間だとどうしてもいろいろと自分との違いを考えてしまう。しかし今目の前にいるのは同じアンドロイド。特に思考を凝らさなくても相手がしたいことなどシュミレートできてしまうのだ。
「まったく無意味な機能だよな」
「独り言が多いわね。今度はいったいどうしたっていうの」
「いや、今度はほんとに独り言だ。気にしなくていい」
アンドロイドの思考を理解できるように、人間が考えていることも簡単に理解できてしまえればこんなに思考を凝らすこともないのに。
そもそもこんな実験が始まってないかもしれない。いや始まっていないだろう。
「ああ……」
もはやアンはリクに目を向けることなく、目の前の盆栽に全神経を集中させていた。目の前の霞がさっきよりもひどくなったように思える。
やはり何か異常が起きているのだろう。メンテナンスするか、それでもだめなら大学に行かないと。
リクは立ち上がろうと、しばらく動かしてなかった体をほぐそうと伸びをしようとした。
「あ……」
「……もう、一体何なのよ」
アンの苛立ちがこもった声色の問いかけに、リクが返事を返すことはなかった。
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