第5話(part2)「隣に引っ越してきたアンドロイドです」「しんちゃん、大変よ!」
数分後、リクはジーパンに履き替え、Tシャツの上から羽織ったジャケットのしわを伸ばしながら、部屋から出てきた。
「どうだ?」
「さっきよりかはずいぶんとましになったわ」
「そうか。そういえば部屋に戻って気づいたんだが、あいさつに行くときは手土産に持っていくのが基本だろう? 俺たちはそれを用意していないんじゃないか?」
「そうだわ。私も忘れていたわ」
「どうするんだ」
リクの問いかけを無視して、アンは焦るように小走りで自分の寝室に戻るとしっかりとした紙袋をもって、リビングに戻ってきた。
「それは?」
「手土産よ。いつか行くとは思っていたから用意しておいたの」
「用意周到だな。ちなみに中身は何なんだ?」
「この間テレビで販売サラリーマンが必死に宣伝していた洗剤十種類よ。ネットでの評価も意外とよかったから選んでみたの」
「その販売マンの業績に一役買ったわけだな」
「そんなつもりはなかったけれど、あまりにもその人が必死そうに見えたかつい同情心で買ってしまったわ」
「同情で買ったものが手土産か……」
「何? 何か言いたいことがあるのかしら」
アンは少しむっとした表情を見せ、リクにそう問いかける。
「なにかほかに用意している物があるなら、別にそっちでもいいわよ?」
「いや俺は手土産の必要性についてさっき気が付いたところだから、残念ながらそんなものは用意できていないな」
「それならこの同情洗剤でいいかしら」
「構わんだろう」
「それなら行きましょう」
二人は一瞬アンが手元に持つ紙袋の中身に不安を覚えたが、お互いにそれを口を出すことはなく隣の部屋に向かって、家を出た。
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