「今日はキスの日らしいわよ」「どうしたんだ急に」

「リク、キスしましょうか」

「何だ急に唐突だな」

「唐突じゃないわ、今日はそういう日なのよ」

「そういう日? ……ちょっと待てアン、それ以上近づくんじゃない」

「どうして? 私に夜這いされたらたいていの人は喜ぶはずなのだけれど」

「夜這いとか人聞きが悪いことを言うんじゃない。それより俺の話を聞いてくれ」

「リクの話は特に聞く必要は無いわ。今日はキスをするのよ」

「待て待て、ソーシャルディスタンスを守るんだ! それ以上はダメだ!」

「私達はアンドロイドよ、ウイルスは関係ないわ」

「それで、今日のその悪ノリは何が原因だ」

「ほんとにリクはノリが悪いわね。今日はキスの日みたいよ」

「キスの日?」

「遠い昔に日本で初めてキスシーンがある映画公開された日が今日なのよ。だから今日はキスをする日なのよ」

「…………」

「何よ。そのかわいそうな人を見るような目は。そんな目で私を見ないでくれる?」

「このご時世365日何かの日だ。何かしら理由をつけて何かの日をしてるのに、なんで今日に限って反応してるんだ?」

「そんなの……私の口から言わせないでもらえる?」

「な、なんだ急に紅くなって……」

「ほんとだったら今日だってリクからくるべきなのよ?」

「いや、そんなことを言われても……まあ確かに俺もそういう日だということは分かっていたが……それでも、いいのか?」

「いいに決まってるじゃない。だって私達は……」

「……ゴクリ」

「実験をどれだけしていないと思ってるの?」

「……ん?」

「私達最近実験をしていないでしょ?私達が同棲している理由は何?」

「恋が何かを知るために実験をするため……だな」

「だから今日という日にかこつけて私は実験しようと思ったのよ」

「なるほど、実験ね……」

「それでリクは何を期待していたのかしら?生唾まで飲み込んで?」

「いや、俺は……」

「俺もそういう日だと知っていたとは言っていたかしら?」

「……楽しそうだな」

「ええ、楽しいわ。それで? キスはするの?」

「……いやしない。俺達はそもそもそういう関係じゃないだろ。実験をする関係だ」

「……そうね。残念だわ」

「残念?」

「実験は失敗。キスの日に乗じて男の感情は流されるのか。もしかして……惜しかったかしら」

「……勘弁してくれ」


今日も今日とてアンの手のひらの上で踊らされるリクであった。

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アンドロイド&アンドロイド 葵 悠静 @goryu36

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