籠絡


 食事を終えた銀二たちは丁寧に毛繕いをする。猫とはきれい好きな生き物なのだ。


「しっかし統率執れてるなあ。猫なのに」


 男の何気ない言葉を銀二は聞き逃さなかった。猫なのに、とは聞き捨てならない。文句のひとつも言ってやろうと男の元に近付いた銀二はぴん、と尻尾を立てた。


 メシの匂いがする!


 何処だ?

 銀二は男に鼻を擦りつけた。どうやら男の手からメシの匂いがする。欠片でも残っているのではないか。


「うおっ。何だ?」


 男は驚いて手を引こうとしたが、銀二がぺろぺろと舐め始めると相好を崩した。

 やばい。かわいい。

 そのままするに任せながら、そっと喉を擽ってみる。


 ごろごろ。


 銀二の咽が鳴る。

 どうやら無意識らしい。

 くうううっ。可愛すぎるだろう。


 男はわしゃわしゃと銀二を撫で擦った。



     *



「うなあぁぁ~ん」

(はあーっ。極楽)


 銀二は心地好く弛緩した身体を男に擦り寄せた。いつの間にか膝に抱き上げられたことには気付いていない。土管の下から仲間が不安気に見上げているがそれにも気付いていない。

 恐ろしく気持ちが好かった。

 喉から始まって、首の後ろ、頭全体を優しく撫でたあと、耳の周り。それから眉間。細くて長い指が巧みに銀二を愛撫する。いつの間にか弛みきった四肢が男に寄り添う。己が腹まで見せてしまっていることを朧気に認識してはいるが、どうにも抗えない。

 こんなの初めて、なのである。


 土管の下からはにゃーにゃーと銀二を気遣う仲間の声がする。


「にゃあぁぁぁん」

(う~ん。だぁいじょおぶぅ)


 群の将たる威厳は何処へやら、銀二は魅惑の指の虜になっていた。


 完全に油断していた。

 不覚、と言っていいだろう。


 銀二を抱いたまま男が立ち上がった。長い腕に絡め捕られて銀二は身動きが取れない。


「みぎゃあぁぁっ」

(隊長――っ)


 見守る面々から悲鳴が上がる。


「にゃにゃっ」

(だ、大丈夫だ!)


 仲間を含め、自分にも言い聞かせるように銀二は言った。心臓が早鐘を打っている。歩き出した男の腕のなかで、何とか体が震えないように歯を食いしばるのが精一杯だった。

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