銀二


 とろんとした目で銀二は男を見上げた。

 優しそうな男である。

 銀二が話しかける度ににこりと笑んで撫でてくれる。


「お前は何だ? 何処から来た?」


 訊いても男は答えない。銀二の言葉が分からないのだ。

 見知らぬ土地に心細さを感じているようで、歩きながらきょろきょろと辺りを見回している。己の仲間を探しているようだがそれは無駄というものだ。その男のような生き物を銀二は見たことがない。何処から来たのか知らないが、早々に元いた場所に戻った方が好い。迷子ではそうもいかないのだろうが。



 空が白々としてきた頃から男はそわそわし始めた。もう随分長いこと歩き回っている。

 どうして人も車も居ないんだ、ということをずっと気にしている。


 ひと、というのがどうやら男のしゅであるらしい。くるま、というのは分からない。きっと男の世界にはたくさん在るものなのだろう。


 男は罠の木に興味があるようで、時折近付いて覗き込んだりしていた。一度はすぐ前まで歩いてゆき、木肌に突き出た瘤のような部分を押した。ピンポーンと軽やかな聞き慣れない音が響き、銀二をはじめ猫一同が総毛立つ。銀二が緊張したことに気付いた男はその身を優しく撫で擦りながら木に向かって話しかけた。

 木に話しかけるなど不安で気でも触れたのか。銀二の心配を他所に、男は至極理性的且つ礼儀正しく何度か問い掛け、反応がないと分かると肩を落として再び歩き始めた。

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