作戦2 意思決定

「ではまず、やりたいことをまとめましょう」


 三郎が心持ち胸を張って告げると、銀二がしかつめらしく応える。


「ぴくにっくだ」


 そして、こちらも負けじと胸を張る。


「幸太郎と舞衣を連れてあちらへ行こう」


 二人を交互に見遣っていた小太郎も胸を張った。何だか面白そうだから真似をしたいのだ。


「みんなへのお土産に、さきいかいっぱい持って行きたい!」


「舞衣が許す訳ないだろう」


 えええぇぇぇぇ……


 銀二の切り返しに小太郎はがっかりした。

 夢がないなぁ。今はやりたいことをまとめてるんだから、ちょっとくらい無茶を言っても好いはずなのだ。

 そう思い、ちらりと三郎を窺ってみる。


「無粋なことを言わないでください、隊長。今は、『出来ること』ではなくて『やりたいこと』を挙げてるんですよ?」


 わざとらしく溜息を吐いた三郎が優雅に尻尾を一回打つと、銀二はいきり立った。


「な……何だとぅ?」


 ぱんぱんに膨れ上がった尻尾をバシバシと床に打ちつける。


「じ、じゃあ。泊りだ! ぴくにっくは泊りがいい!」


「いいですよ」


 あっさりと頷かれて、銀二は驚いたように固まった。


「え? いいの?」


「いいですよ。でも隊長。泊りになったら、『ぴくにっく』じゃなくて『きゃんぷ』ですよ?」


 ふふん、と笑われて銀二はますます尻尾を膨らませる。


「さけっ。さけも持って行く!」


 バシバシと尻尾を打ちつける。


「いいですよ」


「!!!!!!!」


 隊長の尻尾、破裂するのと千切れるの、どっちが先だろう?

 小太郎はわくわくした。


「さきいかもっ。さきいかも持って行く!!」


「もちろん」


 三郎は満足気に頷いた。銀二はますます激しく尻尾を振っている。


 あ。


 小太郎は不意に思い出した。そういえば、三郎はじゃんけんに負けたのだ。あのとき、無言で自分の出したパーを見下ろしていたんだった。


 えー、何? 三郎さん可愛い。小太郎の眉尻が下がる。


「ではまとめると、

 幸太郎と舞衣を連れて、

 さけとさきいかを持たせて、

 泊まりがけで、

 『ぴくにっく』

 ですね?」


 三郎が確かめるように言った。態とぴくにっくという言葉を使って銀二を怒らせている。恐らく、きゃんぷと言われても怒るのだろうけど。


 何なの、二人とも。超可愛い。


 小太郎はにやにやしながら振り返った。テレビを見ていたはずの男が、やはりにやにやしながらこちらを見ている。小太郎は自分の頬に手を当てた。


 おんなじ顔をしてるなんて、何だかちょっと嫌だな。小太郎の眉間に皺が寄った。

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