6月 2日(金) 晴れ

久し振りに顔を出したら留守だった。

残念だが仕方がない。

事前に知らせる術が無いからな。


扉の前で大人しく待つ。

行き交う面々が私に声を掛けたり撫でたりするが、私は過剰な反応はしない。

ここは私のテリトリーではない。

無用な諍いを生むつもりはないのだ。


男が住んでいるのは大きな罠の木だ。


生長の過程で一度閉じたら二度と開かず、閉じ込められた者は死を待つのみ。と思っていた罠の木だが、開く術があると男に教えられた。以来、塒として重宝している。


あちらの世界では大小総じて「罠の木」と呼ぶが、こちらでは形や大きさに応じて呼び名が決まっているらしい。

男が住んでいるのは「まんしょん」だ。


待ち草臥れて大きな欠伸が出る。

陽が落ちてからもうかれこれ経つ。

もしかして、今日は「きんようび」か。

その日は男の帰宅が遅い。

「さけ」を呑んでご機嫌で帰って来る。


案の定、夜更けに赤い顔をして帰って来た。

私の顔を見て、一瞬目を見開き、嬉しそうに笑う。

愛い奴め。


随分待たされたが、魔法のような手でわしゃわしゃと撫でられると、私はすべてを忘れて許してしまうのだ。

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