温もり


 コンビニの駐車場に胡坐を搔いて男はごくりと唾を飲み込んだ。油断すると胃から酸っぱいものが上がってきそうだ。腹が空で好かった。


 これはあれだな。多分。


 神妙な顔で向かいに居並ぶ猫たちを見つめる。

 得意気に胸を張る者。隣を見て情けなさそうに身を縮める者。様々だが、一様にその足元には生き物の死骸が転がっている。小さいものはバッタから始まって、雀や鼠。鳩に蛙。長いのは何だ? 鼬?

 隣で鯖トラが男を見上げてにゃあと鳴く。


 うん。そうだよな。分かってる。


 男は鯖トラに微笑んだ。目の前の猫たちにも頷いて微笑み掛ける。


「みんな凄いな。大漁だな」


「みゃあ」


「俺の為に獲ってきてくれたんだよな」


「にゃっ」


 ぐううっと、男の腹が鳴る。

 腹を空かせた男の為に、猫たちは食料を調達してきてくれたのだ。何ていじらしい。否、猫たちは男よりもずっと強い。強くて、優しい。


「ありがとうな」


 猫たちの好意が嬉しい。誇らし気な姿が愛らしい。

 でも。



 でも、無理。



 どんなに好意を有難いと思っても、猫たちが愛らしくても。ものすごく腹が減っていても! 無理だからっ。


「俺はいいから、お前たちが食べな」


 男は猫たちに微笑んで立ち上がった。店舗の脇にある水道の蛇口をひねると当たり前のように水が出た。手で掬って口を近づけると清々しい香りが鼻に届く。澄んだ水はペットボトルのミネラルウォーターよりもよほど美味かった。


「うな~あん?」


 鯖トラが不服そうにこちらを見ている。


「ごめんな」


 男は眉尻を下げた。

 ふと見ると、猫の何匹かは獲物に噛りついている。


 うっ……


 男は慌てて口元を抑えた。


 マジ無理。グロい。


 青褪める男を見て鯖トラが溜息に似た鳴き声を漏らした。

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