嗜好
銀二は満足げに頷いた。
私の合図を受けて姿を消していた仲間たちは期待通りの成果を上げてきた。体の大きい男の食欲のほどは分からないが、腹の足しにはなるだろう。
「まあ食えよ」
私が見上げると男は引き攣った笑顔を向けてくる。
腹が減りすぎて顔色まで悪くなっているではないか。早く食え。
そんな私の心配を余所に男は何と我々の好意を辞退した。
私は愕然とした。
そんなに腹を空かせているのに。何を痩せ我慢している。遠慮をするな。分かち合ってこその仲間ではないか。
こほん、と銀二は咳払いをした。
まあ、あれだ。
私の群に迷い込んできたのも何かの縁だ。
私はお前を仲間だと思っているぞ。
もちろん元のところに帰してやるつもりだが、それまではこの群の仲間を頼って好い。
だから遠慮はするな。
食えよ。腹が減っているだろう?
銀二は鳩を一羽咥え上げて男の元に運んだ。
真っ青な顔で口元を押さえる男が目を剥いて背を向ける。
げええええっ。
……え?
あれ?
ぽとりと銀二の口から鳩が落ちた。
遠慮じゃ、なかった?
吐くものも無い男が涙目で口を濯いでいる。
銀二ははっとした。
お前あれか。うさぎか!
葉っぱが食いたかったのか。それならそうと言ってくれれば……
いや、そうだな。言葉が通じぬのでは仕方がないな。
怖い思いをさせて悪かった。
でも、食い物が違ってもお前は私等の仲間だぞ。
大丈夫だ。
だが困ったな。
私等は葉っぱは食わんのだ。
腹の毛を出すときに齧るくらいでな。
味は二の次だから、どれが美味いのか分からん。
そこら中に生えているのに食わんということは好みがあるのだろう?
さて、どうするか。
銀二が思案していると俄かに周りが騒がしくなった。
ぎゃあぎゃあと
忌々しいロクデナシめが。
銀二は鋭く鳴いて騒ぎの中心に躍り出た。
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