空腹


 コンビニは意外と早く見つかった。

 男はほっと息を吐いた。男の後には相変わらず猫たちが続いている。目指すものを見つけて安心したのか男の腹が盛大に鳴った。


「何だ、腹が減ったのか?」


 くすりと笑った銀二が目配せすると群の何匹かがすっと消えた。

 銀二は相変わらず男の腕に抱かれている。公園からは小太郎も一緒になった。

 声を発したからか、男が覗き込んで頭を撫でる。その馴染みのない感触が捨てがたいものになりつつあることに銀二は戸惑いを覚えた。心地好いことは確かだが、これは手放さなければならないものだ。


「ちゃんと帰してやるからな」


 銀二は男の腕に頬を擦り寄せた。



     *



 男はコンビニの前で立ち尽くした。


 うん。何となくそんな気はしていた。


 強がってみても楽にはならない。

 ガラス張りの店舗は中がよく見渡せる。だから入らなくても分かった。


 空っぽ。


 だってことは。


 はあああぁぁ……


 盛大な溜息を吐いてしゃがみ込む。

 そうか。うんそうか。空っぽか。


 ぐううううぅぅっ、と腹が鳴る。

 こんなときでも腹は減るのか。そうか。


 ごろんと横になった。

 腕に抱いていた鯖トラがとことこと歩いてきて男の鼻先をぺろりと舐める。ざらりとした感触は少しも心地好くなくて、却って笑えた。


「慰めてくれるのか?」


 男は手を伸ばしてその猫を撫でた。柔らかくて温かい。


「にゃぁん」


 元気出せよ、と言うように鯖トラがまたぺろりと舐める。


「痛いって」


 男は笑った。笑いながらちょっと涙が出た。


 泣いてないからな。笑いすぎてちょっと出ちゃっただけだからな。

 自分に言い聞かせる。


 ぐううううううっ。


 腹が鳴った。

 笑える。

 何にもないこの町で、いったいどうすれば好いのか。



     *



 男があまりに辛そうなので銀二は可哀相になって男をぺろりと舐めた。


「元気出せよ」


 銀二が舐めると男は笑う。笑うが、嬉しそうではなかった。

 辛そうに顔を歪めて泣きながら笑う。


「泣くな。私がちゃんと、元の場所に帰してやるから」


 ぐううううぅぅっ、と男の腹が鳴る。

 腹が減るから気が弱ってしまうのだ。

 銀二は体を伸ばしてにゃあと鳴いた。

 その声に応えるように、遠くで猫の鳴く声がした。

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