ねこ side
集会を開こうといつもの空き地に集まったら、変な生き物が居た。
私の定位置の筈の土管の上で
未知の事態に遭遇した場合、対処するのは群の将たる私の役目だ。
取り敢えず土管に上がって未確認生物を観察する。
幸い対象は眠りのなかに在るようだ。比較的安全と思われる今のうちに、ある程度状況を整理しておくのが得策だろう。
「たいちょー、大丈夫ですかぁ?」
一番年若い小太郎が間の抜けた声で問い掛けてきた。
私はそれをひと睨みして尾をぱしん、と土管に打ちつけた。
小太郎の隣の三郎が、それを見て慌てたように小太郎の口を塞ぐ。
「すみません、隊長」
頭を下げてから、
「こら、小太郎。声を出す奴があるか。アレが起きたらどうすんだ」
「ごめんなさぁい」
小太郎にはイマイチ危機感がない。漫才のようなその光景を見降ろして私は思わず溜息を漏らしてしまった。
この頃はテリトリーの境界線も安定していて
そんななか、降って湧いた脅威。
見たこともない生き物。
あまり凶悪そうな印象は受けないが(むしろ若干間抜けな感がある)このでかさは脅威だ。小太郎など、こ奴の顔よりも小さいではないか。
試しに頬の辺りをそっと押してみる。
「うう~ん」
うおっ。
び、びっくりした。
心臓は早鐘を打つが、ちらりと振り返ると皆の視線が注がれている。
いかん。威厳が……
気を取り直して再び対象の顔を押す。
ぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷに……
眉間に皺を寄せた対象の顔が、押せば押すほどだらしなく垂れ下がってゆく。
何だこいつ。キモチワルイ……
そうは思いながらも、垂れ下がってゆく顔が面白いので夢中で押し続けた。
少々夢中になりすぎたかもしれない。
遂に対象が覚醒した。
奴が
くうぅっっ。私の威厳が。
悔みながら高鳴る胸を鎮めようとしていた私に更なる脅威が襲いかかる。奴が、遂に動いたのだ。その有り得ないほどに長い腕を伸ばして私の腿の辺りを掴もうとする。
「ぎ、ぎゃああああぁぁぁっっっっ」
私が情けない悲鳴を上げて飛び退ったとして、誰がそれを笑えるだろう。
未知の恐怖。
それが如何ばかりのものか、想像してみて欲しい。
少し離れた場所から、恐怖を打ち消すように尻尾を膨らませて威嚇の呻りを上げる。「鯖トラの銀二」と言えば、ちっとは知られた身なのだ。
起き上がった対象と目が合った。
私の尻尾を見た奴の目に何かが
私の背を、冷たい汗が滑る。
嫌な予感がした。
私はこの一帯を仕切るボス猫である。
私の背の鯖柄を見れば皆が道を空ける。
重ねて言うが、ねこ、である。
断じて、間抜けなタヌキなどではない。
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