微睡
麗らかな陽気のなかで、一番に小太郎が眠りに落ちた。男の膝で丸まって、穏やかな寝息を立て始める。
「怖い思いもしたし、疲れたんだな」
男は規則正しく上下する背中を撫でた。日差しに温められた柔らかい毛は、元々の体温と相俟って心地好く男の手を擽る。
くわあっ。
と大口を開けて銀二が男の傍らに丸まった。胡坐を搔いた太腿にその温みが伝って欠伸を連れてくる。
そういえば猫は夜行性だったかな。
そんなことを考えながら子猫を抱き上げてごろりと横になる。
随分歩き回ったので男も疲れていた。
空腹も満たされて、心地の好い春の陽に照らされて、男も眠りのなかに落ちていった。
*
はっと目覚めると辺りは黄昏の薄闇に包まれていた。温められた身体も冷えかけている。男は起き上がってスーツに刺さった芝を払った。
今何時だ?
無意識にスマホを取り出してはっとする。
地図アプリ使えば一発だったんじゃあ……
ああ馬鹿。俺、馬鹿。
昼前には帰れたであろうものを、せっかくの土曜を一日無駄にしてしまった。
早速駅を探そうとスマホを持ち直す。
「うなぁ~ん」
足元で鯖トラが鳴いた。頭や体を擦りつけながら男に纏わりつく。
それを見る男の頬がだらりと下がる。
うん。まあ、無駄ではなかったな。
この可愛さはやばい。
連れて帰……れないかなあ。
鯖トラ、ボスっぽいしなあ。たいちょーって感じ(笑)
他の奴ら放って俺んとこには来ないか。そもそも他の奴らが離してくれなさそうだしな。
でも。
男はしゃがんで鯖トラを撫でた。わしゃわしゃと撫で回していると他の奴らも寄って来た。公園ですっかり味を占めたらしい。
可愛いなあ。
やっぱり連れて帰りたいなあ。
撫で撫で待ちの行列をやっつけながら、男は思った。
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