作戦5 実践1の2 お買い物

 男にバスケットを持たせコンビニの前まで連れてくることに、銀二たちは成功した。ここで酒とさきいかを買わせるのだ。


「にゃっ」


 男を送り出し、大人しく駐車場の片隅で待つ。猫は店内に入ってはいけない、ということを彼らは既に学習していた。程無くして自動ドアが開き男が出てくる。


 この「勝手に開く罠の木」は銀二たちに衝撃を与えた。

 男の世界の罠の木は、銀二たちの世界のそれと形は違わないのに随分と様子が違う。こうやって勝手に開くかと思えば、「かぎ」というものを掛けて開かないようにも出来る。何より、がらんどうのなかには沢山の物が詰まっていて、漏れる明かりもどことなく温かい。

 男の住む世界は、雑多で、やかましくて、温かい。と同時に、冷たくて恐ろしくもある。こちらにも馴染んできたとはいえ、やはりあちらに帰るとほっとする。


 男は買って来たものをバスケットに入れていた。銀二たちが騒ぐと中を見せてくれる。

 冷たいお茶。ジュース。おにぎり。チョコレート。三匹用に、ちょっと奮発したパウチタイプのねこご飯。近所の公園でのピクニックには十分な品揃え。しかし、銀二たちはご不満だ。


「おい三郎。さきいかが見当たらんが」


「そうですね。無いですね」


「あの猫の絵の描いてあるよく分からんやつが私等のメシか?」


「ええ。おそらく」


「えー。さきいか食べたい」


「さけも無いような気がしますね」


「目論見と違うではないか」


「おかしいですね。昼だからでしょうか」


「昼? それが何に関係するのだ」


「ほら。あいつ、さけを呑むのは夜だけじゃないですか」


「そうか?」


「そうですよ。夜にもう一度試してみましょうか」


「では、今日はさきいかは無しか」


「仕方がありません」


「えーーーーーっ」


 今回は上手くいかなかったが仕方がない。取り敢えず今日の一番の目的は男をあちらに連れて行くことだ。

 銀二たちは少々肩を落としつつ歩き始めた。その後に、情けない顔で溜息をいた男が続く。このコンビニまでの道程で、猫たちが自分の思う方について来てくれないことはとっくに学習済みなのである。


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