作戦7 実践2 男を異世界でおもてなしするよ! 

「にゃあ」


 男は恐る恐る目を開けた。明るい構内は静寂に満ちている。かさり、と何かが足に触れた。視線を落とすとカサカサに乾いた蜜柑の皮が転がっている。


「え? ここって……」


 がらんどうの駅。明るく照らすダウンライト。男はガラス戸を押して外に出た。

 何の変哲もない風景。だけど、人っ子ひとり居ない。車も走ってない。空気の澄んだ美しい町。


「マジで? もしかして、異世界とか言う?」


 ついてきた猫たちに問い掛けても、にゃあという返事しか返ってこない。


「いやいや。異世界って言ったらアレだろ? 変な能力授かって魔王とか倒しに行くやつだろ?」


 見たところ、普通の町ですが。

 魔王? ここにいるのは可愛いにゃんこたちと鴉ぐらいのものですが。

 でも、ぼわーっと光ってやって来たのだ。異世界何だか知らないところに。




     *




「いせかい? まおう? 幸太郎は何を言っているのだ?」


 銀二が顔を顰めると、三郎ではなく小太郎が答えた。


「おれつえーーーー。だよ!」


「はあ?」


「おれつえーーーーで、ちーとなんだよ」


「すまんが小太郎。全然分からん」


 ますます顔を顰めた銀二は三郎に向き直る。が。


「すみません隊長。私にも全然分かりません」


 頭の上に綿埃を載せた三郎は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。銀二がじっと見つめると、綿埃は照れたように三郎の毛の間に潜ってゆく。


「まあ、いいか。今日は幸太郎とぴくにっくだ!」


 銀二が宣言すると小太郎は飛び跳ねて喜んだ。銀二たちの帰還に気づいた仲間も集まってくる。男を伴って来たのが広まったのか、いつになく数が多い。


「ほら、行くぞ」


 銀二は男に声を掛けた。


「あ。弁当!」


 男が一度駅に消え再び戻って来ると、猫たちは公園に向けて弾む足取りで歩き始めた。

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