閑話3.人に(黒)歴史あり
地球生まれの外来人がアールハインに来て、“魔法が存在する”、あまつさえ“自分にも使える可能性がある”ということを知ると、ほとんどの人間が
特に、魔法適性系の固有権能ギフトを得ている場合、ちゃんと訓練すれば魔法が使えるようになることが神によって保証されているのでなおさらだ。
“魔法適性(C)”のギフトを持つシュートも例外ではなく、ドムスに師事するようになって以降、冒険者としての活動の合間を縫って魔法の訓練に勤しみ、3週間ほどで一応初歩的な魔術をいくつか使えるようになっていた。
ちなみに、“魔法適性(C)”とは、シュートを此方アールハインに送った神様の説明によると「アールハインで普及している魔法を身につける素質がある。(C)であれば、きちんと師に就き勉強すれば、ごく一般的な魔法学校の生徒並の学習速度で中級ランクまで習得可能」というものらしい。
──すごいのか、そうでないのか、よくわからないギフトである。
「いや、それ、すごいからな!? 魔法学校に通ってる学生から見たら、身震いするほど羨ましい反則チートだから!」
師匠ドムスの言葉に、シュートは首をかしげる。
「え? でも、これって要は“中級クラス以下の魔法を、ごく普通のスピードで覚えられる”ってだけですよね?」
「あー、そうか。“中級”って言葉に騙されてるな。あのな、シュート、魔法先進地区のクラムナードならともかく、グラジオン、ましてやこのサイデルでは、“魔法使い”を
予想外の実情を聞いて、シュートは目を丸くする。
「え、そう、なんですか!? “中級”ですよね?」
「大陸によって微妙に分け方は違うが、俺の学んだグラジオン流で言えば、一般的な魔術は1~9までの階梯に分けられてるな。その中で第四階梯から第六階梯までに属する魔法が中級に分類されるわけだが……」
ふむ……と、ドムスは少し考え込む。
「そうだな。外来人のお前さんに分かりやすく言えば──メラゾ○マやヒャダ○ンなどに相当する攻撃魔術が、第六階梯に存在している。別のゲームで言うなら、ケア○ガが第五階梯、エ○ナが第六階梯だな。ザ○とかム○に近い、いわゆる“即死呪文”もたしか第五階梯だったはずだ」
「げっ!」
確かにヤバい。ドラグ・スレ○ブやメガ○ス級の大規模破壊呪文などには及ばないだろうが、戦争などで数百数千の軍勢でも相手にしない限り、一介の冒険者なら中級魔法が使えれば確かにそこそこ無双できるだろう。
「いや、モンスターによっては属性や魔法そのものに耐性があるし、人間でもS級冒険者とかなら中級どころか上級魔法が2、3発直撃しても平気で耐えるんだが……」
なにそれこわい。
「とは言え、そういうバケモノ級が相手でない限り、中級魔法は確かに使えるだけで、戦局を変える可能性があるのは理解できるだろう?」
「はい……」
神様、正直地味なギフトだと侮ってました、すみません──と、心の中で懺悔するシュート。
「さらに言うと、お前さんのような“魔法適性”持ちは、そのランクに応じた魔法をすべて普通に覚えられることが、神様じきじきに保証されてるんだ。
俺を見てればわかるように、この世界の魔法使いには得手不得手というものがある。一応、上級魔術師を名乗ってる俺だが、攻撃魔術に関してはせいぜい中級クラスを“なんとか発動できる”程度だ。
それなのにお前さんは、攻撃・防御・回復・補助・付与・利便、それにおそらく召喚も含めた、7系統の魔法を中級ランクまですべて覚えられるんだぞ? 魔法学院で苦手魔法の習得に四苦八苦してる人間から見たらインチキなんてモンじゃないな」
ただし……と、微妙に意地の悪い視線を、ドムスは弟子に向ける。
「お前さんの適性はCだから、魔法ひとつ覚えるのにも相応の時間がかかる。
初級ランクのうちは俺が一通り見繕って教えてやるが、それ以降は、どの魔法を覚えてどれを覚えないのか、キチンと取捨選択しないと、時間がいくらあっても足りないぞ? それと、いくらたくさんの魔法を覚えても、然るべき場面で最適な魔法を即座に使いこなせないと器用貧乏って言われかねないから、そこんところも留意しておけよ」
「コッチでもそれですか! あ、いえ、元々日本にいた頃も、よく“器用貧乏”呼ばわりされてたんで……」
どこまで言ってもその呼び方から逃れられないのか、と凹むシュート。
気を取り直して、以前から気になっていたことを聞いてみる。
「ところで師匠、もしかしてこのサイデル大陸って、魔法関連の技術面では、三大陸で一番遅れてるんですか?」
むむむ、とドムスは腕組みする。
「この国の王宮に、一応宮仕えしてる形の俺が公言するのは少々問題あるんだが……正直に言うとその通りだ
まぁ、これは、そこに住む人間の平均的な保有魔力自体がクラムナード>グラジオン>>サイデルなんだから、ある意味、仕方ないとも言えるな。
召喚魔法に関してのみは比較的研究が進んでいるとは思うが、それだってクラムナードの最高学府と比べれば、それほど大差はないだろうし」
「へぇ……。あれ、でも、師匠はグラジオン大陸の出身なんですよね。なんで、わざわざその魔法後進大陸に来ようと思ったんです?」
何気なく、そう聞いた──聞いてしまったシュートは、師匠ドムスがニコニコと満面の笑顔を浮かべつつ、目が笑っていないことに気付いた。
「1.偉大な祖父の威光の届かないところでひと旗挙げたかった
2.友に裏切られ、想い人に失恋した傷心旅行の末、流れ着いた
3.クラムナードの最高学府アカデメイアのレベルの高さに打ちのめされた
──さぁ、どれだと思う?」
(ど、どれが理由でもおも~い!)
答えられずに冷や汗を流している弟子に向かって、ふ、と表情を和らげるドムス。
(あ、許された?)
安堵しかけたシュートだったが……。
「正解は……1から3の全部でした!」
「(アカン)し、師匠、軽々しく他人の過去を詮索しようとした俺が愚かでしたッ!」
ハハハと自棄気味に哄笑するドムスに、シュートは平謝りするしかないのであった。
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