10.買物狂詩曲《ショッピングラプソディ》

 ユランとドムスが“メイドさんと旦那様ごっこ”をして遊んでいた頃──竜歯四姉妹と保護者代わりのフェイア、そして荷物持ちのシュートは、王都の目抜き通りにあるショッピングモール(地球のソレとはやや趣きが異なるが、ドムスの発案で作られたものだ)へと足を運んでいた。

 「はぁ~~空はあんなに青いのに……」

 「ちょっとちょっとぉ、シューくん、せっかくのお買い物日和なのに、何、辛気臭い溜息ついてるの!?」

 いかにも気乗りしない風情のシュートの様子をフェイアは見咎める。

 「いや、そこは察してくださいよ、フェイア様。女性にとって買物ショッピングが楽しい娯楽ものだというのは重々承知してますけど、それにつきあう男性陣にとっては大概が苦行なんですよ?」

 「えー、そうかなぁ? 亡くなったボクの旦那さんは、休日に買い物に誘うといつも喜んでついて来てくれたよ?」

 シュートは師匠から、目の前の女性とその夫が人も羨む鴛鴦夫婦ラブラブカップルだったと聞いたことがあったのを思い出す。

 ちなみに、フェイアの夫のスクリーアスは、この国では珍しい学者肌の穏やかな男性だったらしい。5年前の内乱騒ぎの際に、王太子側についたフェイアへの牽制として敵側に捕えられたが、瀕死の重傷を負いつつも自力で脱出し、妻フェイアの腕の中で微笑って息絶えたのだとか。

 「──あぁ、まぁ、ご結婚されてる方とか恋人同士とかなら、そうかもしれませんけどねぇ」

 (そりゃあ、それくらい奥さんのことを愛してる人なら、待機労働にもつもちに長時間つきあうくらいは屁でもないだろうさ!)

 シュートだって、相手が自分の恋人とか気になる異性だとか言うなら、それなりにモチベーションが上がるだろうとは思うのだが。


 「ん~……てぃっ!」

 「イテッ」

 そんな内心を見透かされたのか、背伸びしたフェイアにデコピンされるシュート。見かけは小柄な少女でも実態なかみは剛力なドワーフの成人女性だけあってか地味に痛い。

 「シューくん、減点3だよ! まず、キミは今、ギルドの依頼クエストを受けてココにいるんだから。依頼主が身内だからって、やる気のない様子を見せるのは冒険者失格!」

 「うっ……」

 どうやら、本気でドムスは冒険者ギルドに荷物持ちの依頼を出したらしい。

 「それに、シューくんだって、生涯独身を貫くとかそういうつもりはないんだよね? なら、この際、将来、意中の女性とのショッピングデートにつきあう時の予行練習シミュレートだと思って臨むべきだと思うな」

 「それは……ハイ」

 年長の女性からの至極真っ当な忠告に、シュートは頷くしかない──とは言え、彼がよほどフラグ建築に勤しまない限り、男1対女5という今のような状況には陥らないだろうが。

 ちなみに、アールハインでも普通は一夫一婦制が基本だが、それなりの地位か金を持った俗に言う“甲斐性のある”男なら、第二、第三の夫人を持つことも珍しくないし、既婚の王族女性(つまり降嫁せずに王室に留まり婿を取ったケース)が、夫(この場合、大抵は有力貴族の次男三男だ)のほかに若いツバメを囲った場合なども黙認されることが多い。


 閑話休題それはさておき

 「それにホラ、エルちゃんたちの方を見なよ」

 シュートがフェイアの指さす方に視線を向けると、そこには出店の商品棚を真剣な目で覗いたり、楽しそうに店の主と会話したりするエルシアたちの姿があった。

 「これも! あぁ、こちらもそれも、お姉様に似合いそうですわ!!」

 「いや、姉者、さすがにそのテの装飾過剰な服は「動きにくい」とユラン姉上は嫌がるのではないか?」

 「むぅ……一理ありますわね。致し方ありません。ところで、トゥニア、貴女は自分の分の買い物はよろしいの?」

 「その言葉は、そっくりそのまま姉者に返そうか」

 ユラン第一主義に暴走しそうな長姉を直前で制止セーブする次女がいたり。

 「ふわぁ~……わたしたちがこんな風にお店で買い物できるなんて夢みたいだね、ペリオお姉ちゃん」

 「ふっふーん、今のペリオちゃんたちは超絶美少女戦士に生まれ変わったんだから、このくらいとーぜんだよっ! ロッサちゃんも、もっと堂々としてていいんだからね!」

 “初めてのお買い物”に及び腰な末妹を、根拠のない自信(いや、確かに外見は文句なしに可愛らしいが)をもって励ます三女がいたり。


 「ね? みんな、今日のお買い物を楽しみにしてるんだよ。その相方を務める殿方がショボくれてたら、台無しじゃないかなぁ」

 こちらも空気を読むという観点からは、もっともな話だろう。

 「う……善処します」

 シュートはブルブルッと首を左右に振ると、両掌でパンパンと軽く自らのほっぺを叩き、気合を入れ直す。

 「──おし。もう大丈夫です、フェイア様。それで、俺は今日は何をすればいいんです? やっぱ、荷物持ちですか?」

 「うん、それもあるにはあるけど……念のため聞くけど、シューくん、この辺りに買い物しに来たことある?」

 フェイアの問いに、少し考え込むシュート。

 「一応、師匠に師事することが決まってすぐの頃に2回ほどは……でも、普段は家の近くの雑貨店かギルド付属の売店ショップで買い物は手早く済ませちゃいますね」

 日本にいた頃も、コンビニと近所のスーパー以外には、書店とゲームショップ、あとはせいぜい某有名大衆向け服飾チェーン店くらいにしか足を運ばなかったシュートである。

 冒険者として修行中の今は、娯楽にあまり金や暇をかける気にはならなかったので、買い物も最小限で済ませて、たまに屋台で外食するくらいだ。


 しかし、シュートの答えを聞いたフェイアは、やれやれと肩をすくめる。

 「シューくん、キミは今自分言ったとおり、ドムくんの弟子なんだよね?」

 「は? ええ、それはフェイア様もご存じだと思いますけど……」

 「それはつまり、単なる剣士でも魔法剣士でもなく、剣士であると同時に“魔刃工匠”ドムスの弟子としてそのわざを学ぶ意思がある、そう解釈していいのかな?」

 「!」

 思いがけない真面目なフェイアの問い掛けに、一瞬言葉に詰まったものの、シュートはしっかりと頷いた。

 「はい。師匠は、俺に魔具職人になるだけの素質があるって言ってくれました。ならば、俺もその素質とやらを磨いて、師匠みたく“何かを作り出せる人”になりたいです」

 シュートの目にはっきりとした意思が宿っていることを確認して、フェイアは満足げに頷いた。

 「よろしい。だったらなおさら、色々なお店を見に行かないとダメだよ。“自分が作りたいものを作る”のももちろんひとつの有り方だけど、“誰かに使ってもらえるものを作る”ことこそが職人にとっての誉れであり、王道だとボクは思うな」

 ここまで言われれば、シュートにもフェイアの意図することが理解できた。

 「そして、人々みんなが何を欲しがり、何に喜んでいるかを知るためには、活気のある店を見て回るのが一番、ですか」

 「そーいうこと。じゃあ、その第一歩として、身近なおねーさん方の要望ニーズを調べに行こうか」

 「はいっ!」


 * * * 


 そして数分後。

 「それでは、これより第1回ドラゴントゥースシスターズ・ランジェリーショウを執り行います!」

 「さっき、“ちょっとイイ話”っぽいコト言っておいてコレかよ!」

 高らかに宣言するフェイアに、思わず裏拳でのツッコミを入れつつ叫んでしまうシュート。

 場所は、少しお高めの婦人物服屋の奥の一角。わざわざ魔法で壁を形成して一般客から隔てたうえ、ありあわせの材料で、この世界ではあまり一般的ではないはずの“試着室”っぽい代物まで作り出している。

 そこまでする凝りように、フェイアがまぎれもなく“あの三人さんばか”の姉貴分であることをシュートは痛感していた。

 「試着室の存在ことを知ってるのは師匠からでも聞いたんでしょうけど……勝手に他人の店の中にこんなモン作ったら迷惑でしょうが!」

 「だいじょーぶ、ココは、ボクが何割か出資してる知り合いの店だし、さっき店長に許可ももらったから」

 「なんですと!?」

 フェイアの傍らに同席している店長らしき三十代半ばのヒューマン女性に視線を走らせると、苦笑しつつ頷いていることから、嘘ではないのだろう。

 「──お店の許可を得ているなら、その点はいいですけど、なんでいきなり下着ランジェリーショウなんですか?」

 彼女いない歴が年齢とイコールな青少年にとっては、女性向け洋品店に入るだけでも敷居が高いと言うのに、この仕打ちは……。

 「サービスだよね?」

 「むしろイジメですよッ!」

 いっそまるで無関係な女性の下着姿なら、ストリップショーのようなものとして楽しめたかもしれないが、同じ敷地内に住んでいて嫌でも顔を合わせる(しかも特に恋人でもセフレでもない)相手のそういう格好を見てしまったら、今後どういう顔をすればいいのかわからない。

 「いかにも童●的な発言だね!」

 「──俺、地球むこうにいた頃に、友人のつきあいで“そういうお店”に行って“卒業”してますから、一応、違いますよ」

 「おぉっ、ちょっと意外。シューくんって優等生だから、そういうトコ行く気がないと思ってた」

 「まだ19歳と思えないほど枯れてるし」と失礼なコトをのたまうフェイア。

 「た・ん・に! 環境の激変に適応するまで、そういう気分になれなかっただけです!!」

 逆に外来人の中には、地球とは異なる世界に来たことで(性的なものも含め)色々ハッチャケる人間も多いのだが……まぁ、その辺りは個人の性格だろう。

 「──あのぅ、フェイア様、それで、わたくし達はどうすれば……」

 カーテン越しにエルシアが問う声がする。

 「ああ、待たせてゴメンね。じゃあ、“みゅーじっく”スタート!」

 地球の旧型ラジカセを模したような(と言うか、間違いなくドムスが再現したのだろう)黒い魔道具のスイッチをフェイアが押すと、南国のビーチを連想させる軽快なリズムの音楽が流れ出す。

 音楽が合図だったのかシャッとカーテンが開かれ、試着室モドキの中には、ネイビーブルーの地に白い水玉模様の散ったキャミソールとショーツ姿の、竜歯姉妹の末妹格、ベロッサが身を縮め込めるようにもじもじしながら立っていた。

 外見年齢は日本で言うなら中学生になったばかりといった感じなので、プロポーションのよい姉たちと比べるとさすがに胸のふくらみなどはささやかだが、着衣状態での子供っぽい印象よりは、ずっと女の子らしい体型で、シュートは不覚にも一瞬目を奪われかける。

 (い、いや待て。俺はロリコンじゃないはずだ……たぶん)

 「──あ、あの、どうでしょうか、シュートさん?」

 蚊の鳴くような声で問われて、シュートは返答に窮する。

 「(どーしろってんだ、チクショウ)あ~、その、可愛らしいと思うよ」

 こういう場に慣れていないため、無難な応えしか返せないが、それでもベロッサの表情はパァッと明るくなる。

 「あ、ありがとうございます!」

 シュートとしては「こちらの方こそ、いいモノ見せてもらってありがとうございます」という気分だったが、無論口には出さない。

 クルリとターンして試着室の“奥”に引っ込むベロッサ。よく見れば、手前側だけでなく奥の側にもカーテンがある。その向こうで他の3人が待機しているのだろう。

 そして、入れ替わりにカーテンの向こうから……。

 「じゃじゃーん、ペリオちゃん、颯爽登場!」

 朱鷺色ベイビィピンクをベースに黒いレースやリボンで飾られたブラスリップとローライズ気味なショーツを着けたペリオノールがピースサインしながら現れる。

 姉3人には劣るとは言えど、15、6歳というその外見年齢を考慮すると十分な大きさをもったバストサイズと、若鹿のようにしなやかな肢体は、普段あまり女性と縁のない生活をしているシュートには少々眩し過ぎる。

 「ねぇねぇ、シューくん、どうどう? ペリオちゃん、セクシー?」

 キャピキャピした明るい雰囲気で、セクシーと言うには少々健康的で淫靡さが足りない気はするが、少女から女性へと成長しつつある時期特有の危うい魅力があるのは確かなので、シュートは素直に頷く。

 「う、うん、見とれるくらい素敵だね」

 あまり芸のない褒め方になってしまったものの、ペリオは十分満足したようで「ま、とーぜんだよね♪」とご機嫌モードで引っ込んでいった。

 「では、次は私だな」

 ハスキーな声音は、4人の中では次女格のクトゥニアだ。

 カーテンを開けて試着室に現れたその姿は……。

 「ふ、ふんどし!?」

 そう、長身で落ち着いた雰囲気から、ともするとユランやエルシアよりも年かさに見えるクトゥニアだが、今その均整のとれた肢体に身に着けているのは、白いフンドシ(にしか見えない下着)と、これまた純白のサラシだけだった。

 「主殿の祖父御やお主の故郷であるニホンでは、これが戦装束の際に着る下着だと聞いているが……違うのか?」

 あながち間違いではない──正解とも言い難いが。

 「(確かに武人肌のクトゥニアさんにはピッタリだけどさぁ)えーと、俺もあまり詳しくはありませんが、確かにサラシを巻いて鉄火場に出る女性はそれなりの数いたみたいですね」

 主に特攻服を着たレディースやら、極妻な姐さん連中やらだが。

 「うむ、そうか。確かにこの“サラシ”とやらは乳房がしっかり固定されて動きやすいし、“フンドシ”とやらもフィット感があってなかなか身が引き締まるからな」

 シュートの応えに満足げに頷くと、クトゥニアはさっさと試着室の奥へと戻っていった。

 「あのー、フェイア様、コレって何の意味が……」

 色々な意味で精神的HPを削られまくったシュートがニコニコ楽しそうな笑みを浮かべているフェイアに尋ねようとしたところで……。

 「オーホホホホ、それでは真打登場ですわ! さぁ、シュートさん、とくとご覧あれ」

 上品だがどこかワザとらしい高笑いとともに、竜歯姉妹の長女格(ユランは色々な意味で別格扱いだ)にしてファング&トゥースの副長であるエルシアが姿を見せた。

 「どうかしら、わたくしの艶姿は?」

 いわゆる“モデル立ち”のポーズをとった彼女のランジェリー姿は、確かに見事なものだった。

 黒を基調にディープパープルのレース飾りで彩られたハーフカップブラジャーに、推定Fカップのたわわな胸が押し込められ、扇情的に揺れている。

 ボトムはブラと色調を揃えたハイレッグショーツとガーターベルト。ガーターに釣られた暗色のストッキングと白い太腿とのコントラストが目に鮮やかだ。

 艶やかさと美しさが下品にならないギリギリの線でバランスを保ったコーディネートだと言えるだろう。

 数秒間は声もなく見惚れていたシュートだが、ふと澄まし顔ながらエルシアの頬がほんのり赤いことに気付き、また腰に当てられた手も微かに指先が震えていることを見て取る。

 (そっか、強気な風を装っているエルシアさんも、まるっきり平気ってワケじゃないんだ。おおかた他の3人が平然としているから、「姉であるわたくしがうろたえるワケにはいきませんわ!」とか思ってるんだろうなぁ)

 そう認識した途端、シュートは彼女──いや“彼女たち”にこれまで以上の親近感を覚えた。

 「ちょ、ちょっと、何か感想はありませんの?」

 「──とても綺麗だと思います。でも、俺みたいな若輩者には目の毒ですから、服を着ていただけませんか?」

 エルシアのプライドを傷つけないよう慎重に言葉を選ぶ。

 「そ、そうですの。まぁ、確かに未だ修行中のシュートさんには、少々刺激が強かったかもしれませんわね! ──貴女たち、元の服に着替えますわよ!」

 そそくさと試着室ステージから引っ込みながら、妹たちに指示を出すエルシア。


 それを横目で見つつ、シュートは先ほど言いかけた質問の続きを小声でフェイアに投げる。

 「それでフェイア様、わざわざあの4人をそそのかしてまで、こんな茶番を仕掛けたのはなぜなんです?」

 「茶番はヒドいなぁ。シューくん的にも目の保養になったでしょ」

 「それは否定しませんが……」

 わずか半日、いや、この1時間足らずで、随分とエルシアたちへの見方が変わってしまったような気がする。

 「ソコだよ。シューくんって真面目だから、「いきなり態度を変えるのは不誠実だ」とか思ってエルちゃんたちに極力以前と同じように接しようと心がけてたでしょ?」

 その殻を打ち破るためのいわば荒療治だったのだ、とフェイアは言う。

 「──意識していたつもりはありませんが、そうかもしれません」

 しかし、それに何か問題があるのだろうか?

 「大アリだね! たとえ身体構造的に純粋な人間と全く同一とは言えなくても、エルちゃんたちは、もうリッパな生身の女の子なの! 以前まえとおんなじ態度だと、傷つけたり不都合だったりすることは多々あるんだから」

 女の子はデリケートなんだからね、とフェイアは力説した。

 異性経験がほぼ皆無なシュートから見ても、末っ子のベロッサなどは内気で繊細そうだし、自信たっぷりな長姉のエルシアも意外に初心ウブなことは先程確認できた。確かにその辺には気をつける必要があるかもしれないが……。

 「他2名とユランさんには、その必要はないんじゃあ」

 「わかってないなぁ。ペリオちゃん、ああ見えてシューくんのこと、バッチリ意識してるし、ユーちゃんがドムくんと屋敷に残ったの、本当に警護のためだけだと思ってる?」

 フェイアの口ぶりだと、まるでペリオノールが自分シュートに、ユランが師匠ドムスに気があるように聞こえるのだが。

 「もちろん、そう言ってるんだよ、鈍チンさん♪ ちなみに、ロッちゃんもキミと話す時、割と嬉しそうだから、ちゃんと気にかけてあげてね。エルちゃんは……まぁ、今の所お姉さんひと筋かな。でも、逆に一番常識的な範囲での女らしさを持ってるみたいだから、そのヘンの距離感はキチンと量ること」

 「イエス、マム!」

 シュートとしては半信半疑ではあったが、こういう人間関係の機微に関してかなりルーズな師匠よりも、この小柄なドワーフ女性の方が圧倒的に頼りになるだろうことは理解していたので、素直にうなずいておく。


 「──ところで、今、名前が挙がらなかった約1名の方は……」 

 試着室の後ろのスペースで着替えて戻って来たエルシアたちと合流し、下着以外の普段着を見て回ることになったシュートたちだが、再び服選びに夢中になっている4人の目を盗んで、シュートはフェイアに囁いた。

 「あの子の場合は──うん、まず“女子力”という概念から叩きこむ必要がありそうだね」

 浮き浮きしていたはずのフェイアの目に、幾分疲れたような陰りが浮かぶ。


 「おぉ、この“アズキジャージ”とやらは素晴らしいな! 実用的で動きやすく、しかも着心地もよい。さすがは異世界から伝わっただけのことはある。うむ、気に入った。上下組で購入して普段着にしよう。

 ──ん? なんだ、ロッサ、ペリオ? 「さすがにそれは……」「ないわ~」?

 案ずるな。主殿の身近に侍る存在として、私とて身だしなみには留意する。ちゃんと3、4セット購入して着回すようにする故、キチンと洗濯して清潔に保つつもりだ。

 え? 姉者、何です? 「鎧下にもソレを着用するつもりですの」? ハハッ、心配ご無用です。こちらの品は、頻繁に洗っても簡単に擦り切れる心配はないそうですから。「そういう問題ではありませんわ」? はて……」

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