Born to be BONE!~骨でも愛して~
嵐山之鬼子(KCA)
00.プロローグに似て非なるもの
『もう一度確認しますが、貴方は本当に故郷に帰らなくてよいのですね?』
太腿近くまである薄桃色の長い髪を揺らしながら、白い
彼女の顔立ちは非常に端整で、ややもすれば作り物めいた印象を与えかねないが、表情の柔らかさと金色の瞳に浮かぶ優しげな光のおかげでその無機質さが和らぎ、清楚な雰囲気もあいまって、パッと見には“慈悲深い
──いや、女神官というか、実際には正真正銘の
この世界「アールハイン」には3つの大陸が存在するが、そのうちのひとつにして最大の面積と人口を誇るのが「グラジオン大陸」だ。“彼女”はそのグラジオンの大地を守護する役割を担う神格であり、そこに住む人々には「慈愛の女神グラジオラ」と呼ばれていた。
「ええ、覚悟は決めました。サクヤヒメ様には、大変申し訳ないんですけど……」
言葉を濁しつつ、青年はグラジオラの隣りに浮かぶ黒髪の女性──彼女と同じく女神の範疇に入る存在である、彼の故郷の地の守護神「サクヤヒメ」が送り込んだ幻影──に対して、頭を下げる。
『ふむ……このような事態になる可能性も幾許かは想定しておったからの。それほど気に病む必要はないぞえ』
青年の実家は彼女を祀る神職の家系であり、そのなかでも
だからこそ、彼がグラジオラの治める地に“派遣”されたことに関して、ひと悶着あったわけだが、何度かの女神同士の話し合い(?)の結果、青年の進退に関しては彼自身の意志に任せることが取り決められていた。
その結果、青年はこのグラジオンで伴侶と仲間を見つけ、ここに残ることを選択したわけだ。
『ま、お
『私としましても、今後、アチラから招いた方々の拠り所となっていただけるのなら、益のある話ですから』
神々にとって、信仰を得ることと、そのために“声”を聞く素質ある者に自らを祀ってもらうことは文字通り死活問題だ。幸い、青年の血族には、祭祀となりうる人間がほかにも何人かいるので、サクヤヒメの側が譲歩を見せたらしい。
「お二方の寛大なる処置とご判断に感謝します」
再度より深く頭を下げる青年……と一緒に、彼の妻“たち”も神妙な顔つきでペコリと頭を垂れる。
『──にしても、我が分霊がお主に籠絡されることまでは「計画通り!」じゃったが……』
『ええ、彼を一度そちらにお返ししたあとも“待って”いた彼女が見染められることも十分予測はつきましたが……』
『……』『……』
沈黙と共に、女神ーズの視線がひとりの人物に集まる。
『『なんで、そのコまで墜としてる(のじゃ)(んですの)!?』』
「ひ、ヒドい言われようですね」
二柱の女神の槍玉に上がった女性──15、6歳くらいに見える銀髪の少女が、我慢しきれずに沈黙を破るが、すぐに自嘲じみた笑みを浮かべた。
「──まぁ、確かに
それでも、これは自分と彼が決めたことだから、誰に後ろ指さされようと胸を張って生きていくつもりだ──と、少女はキッパリ言い切る。
が、そんな少女の精一杯の
『あらあら、すっかりメロメロですわね』
『うむうむ、その覚悟があるのならよし。存分に此奴の子を産んでやるがよい』
からかうような(いや、実際にからかい倒す気満点の)女神たちの言葉に、自分がハメられたことに気づく銀髪の少女。
「く……謀りましたね!?」
一方、青年の方も、あたかも「子供の頃から可愛がってくれた親戚のオバちゃんに、大人になってもイジられる少年」のような情けない表情になっている。
「いや、お二方とも、もうちょっと言葉を選びましょうよ……」
『ふふっ、照れなくてもよいではないですか』
『それに「産めよ増えよ地に満ちよ」は、なにも西方の唯一神の専売特許ではないでな』
ともあれ、こうして異世界から来たひとりの青年とその妻達は、ほどなく冒険者を引退してグラジオン大陸西部の地方都市に住みつき、(その地では無名の)ある女神の神殿の司と、それなりに大きな商会の
これから語るお話は、それからおよそ50年あまりが過ぎた後の、別の大陸を舞台に繰り広げられる物語である。
「え!? もしかして、俺達、出オチ?」
そうとも言う。
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