第一部:マッチョ魔術師と愉快なホネホネ団
01.新軍団長のユウウツ
「はぁ……面倒なコトになったなぁ」
俺の名前はドムス・エンケレイス。このサイデル大陸で、大国とは言わないまでもそこそこの国力とそれなり以上の軍事力を誇る新興国家ロムルスの宮廷で、宮廷魔術師(まぁ、名目は「魔道具技術顧問」だったが)をやってる男だ。
──いや、“やっていた”と言うべきか。本日付けで別の役職を押しつけられちまったし。
借家だった前の住処から引っ越してひと月ちょい、最近ようやっと馴染んできた屋敷に帰って来たところで、門の横から聞き慣れた声が俺に話し掛けてきた。
「いやさ、大将、お帰りなさいまし。それと、この度のご昇進、おめっとさんです!」
でへへ……と揉み手せんばかりに調子のいい三下口調で俺を労うのは、俺直属の私兵部隊「ファング&トゥース」を率いる隊長のユランである。
コイツは、今では30人近い屈強な兵を指揮し、自身も王宮の近衛騎士にも勝るとも劣らない剣の技量を有する歴戦の戦士なんだが、その口調や態度は、初陣を迎えた頃とほとんど変わらない。
よく言えば“軽妙洒脱”、悪く言えば“腰が低くて威厳や風格に乏しい”印象だ。もっとも、これでも部隊の者からはそれなりに人望らしきものはあるし、俺自身も窮地を救ってもらったことは1度や2度ではない。当然俺も、全幅に近い信頼をおいている。
「相変わらず耳が早いな、ユラン。俺自身も、今日の出仕で聞いたばかりだってのに」
もう7年近いつきあいとあって、主である俺も、コイツには主従関係というよりむしろ副官ないし気の置けない相棒的なポジションとして接することが多い。
「そいつぁもう。情報を制する者が戦場を制するって、大将がいつもおっしゃってるじゃねぇスか」
まぁ、確かにそれは俺の持論ではあるが。
実際、この国に於いてはポッと出の新参者もいいトコな俺が、僅か5年余りで今の地位にまで辿り着けたのは、ひとえに入念に情報を探り、いち早くそれを入手したうえで有効活用してきたからだと思っている。
──まぁ、それでもここまで短期間で昇進したのは、この国全体に脳筋気味な傾向があるおかげで俺の謀とも呼べない程度の策でも十分通用したのと、俺の持つ技能がこの国に巧くかみ合ったという幸運もあったんだろう。
もっとも、俺自身は、別段、地位とか出世そのものにはさして興味はなかったんだが……故郷を飛び出して放浪中の身としては、それなりに落ち着ける居場所というヤツが欲しかったのだ。
冒険者や傭兵の真似ごとなんかをしつつふたつの大陸を流れ流れた揚句、海を渡ってたどり着いた3つ目の大陸サイデル。そこで縁あって最初に雇われたこの国が存外気に入り、殊勝にも「このまま此処に骨を埋めてもいいか」って気になった。
どうせなら人に使われるペーペーじゃなくて、ある程度偉いさんの方が自由に動けるだろうと思って、わりかし真面目に仕事してたら──いつの間にやら一部門をまとめる立場になり、そのうち何部門か指導するようになり、挙句の果てには今日「軍団長」なんて似合わねぇ肩書きまで押し付けられるハメになっちまったんだよな~。
「はぁ~、どこで間違っちまったのかねぇ」
「まぁまぁ元気出してくだせぇよ、大将。そもそも「人生ってのは、ままならねーもんだ」が大将の口癖じゃねぇスか」
そらそうだがね。
まあいいや。
一応、「働きたく……もとい、軍団長なんてやりたくないでゴザル」と国王にゴネて交渉した結果、色々好きにやらせてもらう言質はとったし。
「とは言え、ソレも王さんの計算のウチなんでしょうなぁ」
「言うな! わかっちゃいるけど、色々しがらみがあって受けざるを得なかったんだから」
たかが5年、されど5年で、元は気楽な風来坊だったはずの俺にも、護ったり慮ったりしないといけない事柄が片手で足りないくらいにはできちまったし。
嗚呼、
「ニヒヒ、そう言いつつ、お弟子さんやらお友達のこたぁ、見捨てられないのが、大将らしいでやんすね」
長い付き合いだけに、ユランにもその辺りは見抜かれてるか。
癪なので敢えてそれには答えず、居間ではなく書斎兼研究室の方へ足を運ぶ。
前に借りてた中流クラスの一軒家と違って、高級住宅街の外れにあるこの屋敷は、元は貴族の持ち家だっただけあって、少々古いがそれなりに広い。煉瓦塀で囲まれた敷地を塀沿いに一周するなら、大人の足でも1分くらいかかるだろう。
そのぶん部屋数も多いうえに各部屋とも広すぎて、庶民階級の冒険者上がりの俺としては、色々置いてスペースをつぶさないとどうにも落ち着かない。そこで書類仕事関連は、こうしてひとつの部屋にまとめてあるのだ。
まぁ、流石に火を使う工房は、本や文書を保管する書斎と相性が悪いから分けてあるけどな。
「ありゃ? 今日はコチラでのお仕事はお休みするってうかがってやしたが」
「そのつもりだったんだが、ちぃっとばかし問題ができてな」
最低限の掃除と整理はしてあるが、かなり雑然としている書斎の本棚を漁って、目当ての文献を探す。引っ越してさほど間がないこともあって、本の並びはまだそれなりに秩序を保っていたおかげで、目的のものはすぐに見つかった。
「ふむふむ、やっぱ、あの魔法をちょいと弄ってやればイけるか。触媒は……大方揃ってるが、アレとアレが足りんな」
幸いにして明日から5日間は、軍団長としての体裁を整えるためには準備期間がいるってことで
「よし、ユラン、アラド山脈の方に、素材狩りに出かけるぞ」
「へ!? 今からですかい? いや、必要な素材が足りないなら、店に買いに行きゃあいいんじゃあ……大将、金はうなるほどお持ちでやんすよね?」
「あんまり店に並ばん類いのブツなんだよ。それに……ここんとこデスクワークが多くて、ちとストレスが溜まってるんでな」
この国の軍団長と言うのは、よその国で言う「騎士団長」や「将軍」に準じる役職で、格の高さもさることながら、実務の方も(知り合いの軍団長を見る限りでは)めちゃくちゃ忙しい。
正式にそんな役職についちまったら、当分──少なくとも自分の軍団内が落ち着くまでは休日返上で働かされることが目に見えている。
その直前の貴重な休暇なんだから、ちっとくらい羽伸ばさせてもらっても罰は当たらんだろ。
「その“羽を伸ばす”って目的のために、モンスターハントに行くことを選ぶあたり、大将も骨の髄まで冒険者根性が染みついてやすねぇ」
呆れたように言いながらも、ユランは同行することに異論はなさそうだ。まぁ、コイツの方こそ、文字通り骨の髄まで剣士だからなぁ。
「留守番はエルに任せるとして……魔法で跳ぶからもうひとりくらい連れてこう。さて、誰にするかな」
「そもそも、何をどこで狩るんですかい?」
おっと、そう言やそうだ。
「「
「だったら、弓を使えるロッサかドロスが適任でやんすね。今呼んできやす」
ガチャガチャと武具のぶつかる音をさせつつ、足早にユランが書斎から出て行った……のとほぼ入れ違いに、見慣れた人物が姿を見せた。
「こんにちはー。師匠、もうお戻りですよね?」
この国では珍しい黒髪黒瞳が目を引く長身の少年──いや、こないだ19歳になったらしいから、もう“青年”とか“若者”とか言う方が正確か。
俺への呼び掛けからもわかるだろうが、ちょっとした因縁があって俺が面倒を見ている、いわゆる直弟子というヤツだ。
お、そうだ!
「ちょうどイイところに来たな、シュート。確かお前、こないだ冒険者ギルドの認定でCランクに上がったんだよな?」
ゴロツキやチンピラと大差ない
別名“冒険者天国”とも言われる北のグラジオン大陸に比べれば、このサイデル大陸の冒険者ギルドは、国王の城と地方代官の屋敷くらい規模や権威に差があるが、それでも近年は知名度、実力ともに徐々に向上しつつある。
訳ありの内弟子とは言え、コイツのことを温室育ちの頭でっかちにするつもりがなかった俺は、半月ほどの
「ええ、一応……って、まさか師匠の“狩り”に同行しろと? 俺に死ねと言うんですか!?」
大げさなヤツだなぁ。
──確かに、冒険者になる前のスパルタ促成訓練の仕上げとして、レベル3程度だったコイツを連れて、近くの山ん中で24時間不眠不休でモンスターの討伐をさせたことはあったが。
アレのおかげでギルドの教習受ける前にレベル5にまで成長して、体力も魔力も大幅にアップしたから、E、Dランクの依頼は楽勝でこなせるようになったんだろうに。
「ええ、その点は感謝はしてなくもないです……眠気覚ましとスタミナ回復のために次から次に飲まされたポーションが死ぬほど不味くなければ、の話ですが。アレだけは、もう二度と口にしたくありません」
あ~、ありゃ、かなり昔、俺が錬金技術の基礎を学んだ頃に作った不良在庫の処分も兼ねてたからな。今の俺の
「愛弟子の育成に、そんな賞味期限切れ寸前のクズアイテム、使わないでくださいよぅ……」
普段は気前いいクセに変なトコで貧乏性なんだから……と、がっくり肩を落とすシュート。
「ハハッ、気にするな。「ただちに健康に害はありません」ってヤツだ」
「“ただち”じゃなければ影響あるんですか!?」
「大丈夫だって、俺を信じろ」
ジト目になる我が弟子の注意を逸らすべく、話題を変える。
「それはさておき、今日行くのはアラド山脈の奥だ。Cランク単独ではさすがにキツいだろうが、俺たちがフォローすれば、お前さんだって大概の敵とはそれなりに渡り合えるはずだぜ」
まぁ、ギルド講習や実戦でパーティ行動のイロハをキチンと身に着けていればの話だが。
ちなみにレベルとランクは、実は直接的には関係がない。
“レベル”とは、その冒険者の“戦闘関連能力の総合点”とでも言うべき代物で、これが相応に高くないと戦闘が絡む高難度の依頼はこなしにくくなる。稀に低レベルの冒険者が知恵と運で何とかしてしまうケースもあるにはあるが、そんなのは奇跡のようなもので、アテにしてたら命がいくつあっても足りない。
それに対して“ランク”とは“その冒険者の功績に由来する信頼度”だ。これまでにギルドでどういう仕事を請け負い、どれだけ成功してきたかが問われる。
冒険者ギルドにやってきた新人が、レベル測定でレベル20(ちょっとした豪傑クラスだ)と判明することは(極めて珍しいことだが)ありえるが、いきなりAランクと認定されることはない。ランクとは、冒険者として登録されて“以降”の功績によって判断されるものだからだ。
「先週、レベルも8まで上がったって言ってなかったか? あの森の推奨レベルは10前後だから、俺たちと行動してもそう足手まといにはならんだろ」
「そこまで言われるのでしたら、お供しますけど……移動は【
「ああ」
行ったことのある場所に「
「ありゃ、シュートさんも同行なさるんで? だったら、連れてくのは護衛も兼ねてドロスの方がよかったでやんすかね」
ファング&トゥースの幹部格7人のうち、もっとも弓(正確には弩だが)の扱いに長けているベロッサを連れて戻ってきたユランが、ひと目で事情を察して頭をかいた。
「そんな、気を使ってもらわなくても大丈夫だよ、ユランさん。俺だって、一応Cランク冒険者になったんだ。自分の身くらいは守れるさ」
俺に対して泣き言を言ってたとは思えない、熱い掌返しを披露するシュート。まぁ、魔法はともかく、剣の鍛練についてはユランに見てもらってたことが多いからな。もうひとりの“師匠”にいいトコ見せたいんだろう。
──あれっ、その割に本来の師である、俺、ディスられてねぇか?
「ま、その辺りも込みで、今回のコレも修行の内ってことだ。シュート、工房に行くからついて来い。今使ってるのよりちょっと上等な防具を貸してやる。狩りの成果が及第点以上だったら、褒美にそのままやってもいいぞ」
「マジですか!? 頑張ります!!」
野郎、俄然やる気を見せやがって。現金なヤツだ。まぁ、若いうちはこれくらい貪欲な方が伸びも早いけどな。
「そりゃ、ハリキリもしますって。師匠製作の防具って、この国で手に入る最高級品じゃないですか!」
「正確には“同じ素材を使ったなかでは最高に近い防御力を発揮できる代物”、だ。ドワーフの名匠あたりが作る真っ当な最高級品質の一品モノと比べたら、純粋な防具としては2、3段格が落ちる。俺のは無理やり魔法で強化してるだけだからな」
付与魔法については幸いそれなり以上に優れた天稟を持っていた俺だが、武具鍛冶としての才能は並かせいぜい中の上ってとこで、現在の腕前もやっとこ二流を卒業できたかってレベルだ。まだまだ精進が必要だからな。
「ほれ、「
冒険者のランクは男女貴賎を問わず全員共通でEから始まり、ギルド指定の依頼を5種類10件以上こなせばD、その後さらに指定依頼30件以上こなしたうえで試験に合格すればCランクと認められる。シュートの半年足らずでCというのは、かなり早いほうだと言えるだろうな。
「そんなの、一日10件くらい依頼をこなせば、一週間くらいでCまでランクアップできるじゃん」と思うかもしれないが、条件になっているのは“ギルドの指定依頼”だ。請け負えるのは1日1件までと決まっているうえ、多少腕っぷしや機転があろうとも一日で終わるとは限らない依頼も含まれているのだ。
これは、短期間に一気にランクを上げた弊害で冒険者としての常識を知らずに高ランクになっちまう人間が過去にいて問題になったため、それを少しでも緩和するために本家本元のグラジオン大陸で考え出されたシステムらしい。
加えて、やや上から目線で物を言うなら、Cランク到達で「ようやく冒険者として一人前になったかな?」くらいのものだが、実は(この大陸では、と但し書きがつくが)ギルドに登録した全冒険者のなかでもCランク以下のものがおおよそ7割を占める。
Bランク以上は3割弱、さらにその中でS以上にまで昇れる人間は、冒険者1万人につきひとりいればいい方だと言われてる……んだが、世の中は広いもので、SSSなんてキチガイじみたランクの冒険者が3人集まって徒党組んでたりもするのだ。俺も会ったことあるし。
ちなみに、現在認定されている最高ランクはそのSSSで、3つの大陸を合わせても現役のSSS冒険者は両手で数えられるほどだと聞いている。
さらに厳密に言うなら、3大陸ではここサイデルの審査が一番緩い。冒険者の競争率・社会的地位ともに高いグラジオンは相対的に要求基準も高いから、サイデルでCランクになった人間の半数近くはグラジオンではDランク相当……というのが、両方の大陸のギルドを知る俺の感想だ。クラムナードの方はあまり詳しくないので伝聞になるが、あちらも
なお、冒険者として登録しつつ副業を持ったり、逆に本業の傍らで小遣い稼ぎに冒険者をやることも可能──というか、全体の4割近くは、そういう兼業冒険者だ。かくいう俺もそのひとりだしな。
「師匠はAランクでしたっけ?」
「おぅ、この国に来るちょいと前に昇級審査受けて、Aに昇格したままだな」
「もったいねぇでやんすねぇ。大将なら、Sと認められる力量は十分あるでがしょう」
ユランの嘆息に傍らのベロッサもカクカクと頷いている。
「よしてくれ。所詮、俺ァ、変則特化型のイカモノ魔法使いだ。それに、Sランクになったら、ギルドの規定で災害認定された緊急討伐依頼に問答無用で応じる義務ができるからな。宮仕えしてる身にゃあ、そのヘンの折り合いも面倒だし」
ある意味超国家組織とも言えるグラジオン大陸の冒険者ギルドや、民間組織として「錬魔学アカデミー」に次ぐ勢力を誇るクラムナード大陸の「冒険者組合」と異なり、前も言ったとおりサイデル大陸の冒険者ギルドの規模や組織基盤はあまり大きなものじゃない。
その分、それぞれの国の王宮や行政機関が後ろ盾になって支援しているため、官民一体というほどではないにしろ、いろいろ厄介なしがらみがあるわけだ。
「師匠、冒険者組合はギルドとは違うんですか?」
「ん~、やってるコトに大差はないぞ。ただ、グラジオンや
と、そんな雑談をしながらも、俺達は手を動かし続け、ほどなく防具の装備が終わる。
「よし、っと。シュート、そっちは問題ないか?」
あの鎧、元々こいつがCランクになった祝いにやるつもりで、サイズもばっちり合わせてあるから、大丈夫だとは思うが。
「はい、ピッタリです。それにしても……いつ見ても、師匠の
「ほっとけ!」
まぁ、これが他人事なら、俺も同じ感想を抱いたのかもしれんが。
俺は壁に据え付けてある大型の鏡を覗き込む。
190センチを軽く越える身長と、鍛冶仕事や武器の素振り、冒険行での実戦などを繰り返した結果、今着てる
ふた目と見られぬ不細工──とまでは言わないが、おせじにも“美形”とは評価されないだろう、木彫りの
言うまでもなく、俺自身だ。
現国王のサトゥマや剣の軍団長テーバイなんかは、時々「棍棒と熊の毛皮を装備してても違和感がなか」とか「その格好で村に行ったら、絶対蛮族と勘違いされますな」とか言ってからかいやがるが、大きなお世話だ!
──自分でも否定できないのが悔しひ。
それに引き換え、コヤツは……と、やや八つ当たり気味に不肖の(いや、割と優等生ではあるが)弟子の方に目をやる。
二枚目か三枚目か人によって評価が割れそうな程度には整った容貌。180センチ近い身長と、幼少時から続けていた剣術(正確には“剣道”らしいが)の鍛練のおかげか引き締まった体付き。
道行く女性10人中たぶん5、6人がイケメンと認識するであろうルックスは、このイカツいナリのおかげで余計なトラブルをいくつも背負い込んだ経験のある俺としては、素直に羨ましい。まぁ、弟子を羨む師匠というのもアレなんで、口にする気はないが。
それに、コイツはコイツなりに複雑な身の上で、他の人間にはない苦労を経験してきてるようだしな。
「で、俺達の方はいいとして、ユランとベロッサは?」
「抜かりはありやせんぜ、大将!」
待ってましたと言わんばかりのユランの言葉に、ベロッサもグッとサムズアップして同意を示した。
部下の言葉を信頼しないわけじゃないが、一応、ザッとふたりの格好を検分する。
ふむ……いつものハーフプレートじゃなく、突起物の少ないシンプルなハードレザーアーマーを装備してるのは、森の中で狩りをする以上、ベターな選択だな。
手持ちの武装として、ユランは愛用の
「問題ないか。よし、じゃあ、此処から直接“跳ぶ”から3人とも集まれ」
俺の右手をユラン、左手をベロッサが握り……一瞬迷った後、シュートは背中から俺の腰に手を回してきた。
「師匠、【転移】のたびに思うんですが、男同士でこういう体勢になるのは、正直あんまり嬉しくないですね。ちょっとだけフェイア様に弟子入りしなかったのを後悔してます」
ちなみに、「フェイア」とはロルムス国王相談役で、実質的に他国で言う“宮廷魔導師”に等しい地位と権力を持っている魔法使いの女性のことだ。
「安心しろ、俺もだ。どうせ抱きついてくれるなら、野郎より可愛い女の子の方が数十倍嬉しい。今からでも女の内弟子、募集するかな?」
複数の人間が【転移】する際は、手を握るなり、抱きつくなりして術者と物理的に離れない状態にしておく必要がある。さらに、魔力消費の問題──移動人数が増えるにつれ、必要な魔力も増える──があるから、普通は術者自身も含めて3、4人、多少無茶してもせいぜい5、6人が一度に転移できる限界だったりする。
無論、何回か往復するという手もあるが、そもそも【転移】は高位術者用の魔術だけあって、魔力消費量がけっこうキツい。狩猟や討伐後の帰還に使うならまだしも、これからモンスター狩ろうという時に、無駄に魔力を消耗するのは下策だろう。
「て言うか、鏡に映っている今の俺達の姿を見ると、カオスさが半端じゃないですよ」
「ま、まぁ、それも同感だな」
色々な用途のため、工房の壁の一面の半分くらいを占める大きな鏡を設置してあるんだが、確かにシュートの言葉通り、ありていに言ってヒドい絵面だった。
黒く塗った鎖帷子を着た大男(俺のことだ)の腰に、革鎧を着た少年がしがみつき、さらにその男と手を繋いでいるのが……。
「ありゃ? 何か妙ですかい、大将?」
そう、長年俺の護衛兼副官を務めてくれるユラン(そして、ベロッサたち他の直属護衛たち)の見た目は、比喩じゃなくガイコツそのものなのだ。
と言っても、スケルトン──死者の骨に低級霊が憑依して動き出したアンデッドなどとは根本的に異なる。
こいつらは、俺が作りだした「
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