05.修羅の国の剣豪王、その実態
[シュート視点]
「ぶわぁーっははは! そ、そげな理由でヌシは、きれいか
ドムス師匠よりいくぶん年かさだが、隙のない身ごなしの武人といった趣きの赤毛の男性に、笑いながらバンバンッと大きな音がするくらいの強さで背中を叩かれて、あの師匠が嫌そうな顔している。
「いやはや、あの魔道具技術顧問殿が美少女を5人も引き連れて王宮に来たって聞いたときは、てっきりヒカルゲンジとやらの真似事でもする気になったのかと思いましたぞ」
その傍らに立つ、モヒカン頭で師匠に負けず劣らずゴツい──もとい立派な体格の男性も、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。
「うるせぇ……こういう反応がくると予想できてたから、ヤだったんだよ」
いつも(少なくとも俺の前では)泰然自若とした印象のある師匠にしては、珍しく拗ねたような目つきで悪態をついている。
「こらこら、サッくんもテーくんもドムくんをからかわないの。それに、魔術師から見たら、これって結構画期的なことなんだからね」
師匠を弄る気満々なふたりをたしなめるのは、一見したところ俺よりふたつみっつくらい年下の快活そうな褐色肌の少女──に見えるけど、彼女こそがこのロムルス王国に於いて、他国で言う“筆頭宮廷魔術師”に相当する地位についている女性、フェイア・ポルボーレン様だ。
ミドルティーンくらいのヒューマンの女の子に見えるのは、彼女が長命なドワーフだからで、実際にはこの場の誰よりも年かさらしい──さすがに面と向かって女性の歳を聞くほど
で、そんな彼女に悪戯小僧みたくたしなめられていたのが誰かと言えば……。
「
よく言えば武辺の者、悪く言えば脳筋丸出しなセリフを吐いているのが、誰あろう、この国の権力の頂点に立っている(はずの)国王、「剣豪王」ことサトゥマ・ロムルス・アルゲノート様だ。
師匠があの
いや、某ラノベの傭兵王みたく、武力により一代で王国を築いた叩き上げっていうなら、それはそれでアリかとも思うけど、確かこの人、
王侯貴族って言うより、むしろ武芸者とか傭兵とか言われた方がしっくりくる……って師匠に漏らしたら、実際、即位前は偽名で冒険者や傭兵として実戦経験を積んでたのだと教えてもらった。
師匠と知り合ったのも、そんな風に身分を隠して冒険者やってた時で、その頃からの腐れ縁なんだとか。
だからって、いくら公式の場じゃない(あ、ちなみにココは王城の南郭にある、王家の私的な客をもてなすための応接間……らしい)とは言え、ここまでフランクに(一応)家臣であるはずの人間と接する王様というのも、珍しいだろうなぁ。
まぁ、その王様に、いくらプライベートだからってタメグチきく師匠も大概かもしれないが。
「魔術師であるおふた方を前に言うのもアレですが、我が国はこのサイデル大陸においてすら、明確に魔法後進国ですからなぁ」
カイゼル髭を引っ張りつつ、先ほどよりは多少丁寧な口調になったモヒカン……もとい男性が、「剣の軍団」の
この人の場合は、確かに“剣士”とか“戦士”って名乗っても違和感はないな。なんて言うか、某国民的RPGシリーズのラ●アンとハ●サンを足して2で“割らない”感じ? 領地なしの法衣貴族とは言え爵位持ちで、国王の竹馬の友にして右腕たる上級騎士──という言葉から想像される高貴的な雰囲気は、やっぱり皆無だけど。
王様が冒険者してたときも、護衛と称して一緒に喜々として冒険者稼業に精を出してたらしいし。この国、
ちなみに、王様と親衛隊長、それに師匠の3人は、かつて王様が王太子だった頃、お目付け役をしていたフェイア様に散々絞られてたせいもあって、公的にはともかくこういう内々の場ではいまだ頭が上がらないんだとか。
「イイ歳した社会的地位もある(というか無駄に高い)大人の男がそれでいいの!?」と思うけど、
「ま、フェイアの姐さんの言う通り、蓋を開けてみたら我ながらちっとばかし魔術の常識にケンカ売るような真似をしちまったのは確かだけどな。もっとも、前提条件が色々複雑で、言うほど簡単に作れるモンでもないがね」
どうやらユランさんたちを“人間化”した技術は、そうそう簡単に再現できるものじゃないらしい。傍から見てた印象では、「ジ●バンニがひと晩でやってくれました」って感じなのになぁ。
「それより──コレで、アイツらの嫌がらせに対抗できると思うか?」
少しだけ居住まいを正して、師匠が王様たち3人に問い掛ける。
「うむ。外見的には問題なか。我の目からは、年頃のめんこい女子にしか見えん」
「気配は……さすがによく見ると、純粋な人間とは異なるね。魔法使いともまた違った意味で魔力が濃いし。どちらかと言うと魔族に近いかな。でも、よっぽど丁寧に確認しないと、普通の【
王様とフェイア様は、おおよそ合格点をくれてるみたいだけど、テーバイ様は興味津々という表情で、師匠と横に座っている俺……の背後に立っているユランさん“たち”に視線を向けている。
そう、“たち”。実は、あの直後、残りの3人も無事覚醒して、ガラスの培養槽(?)から出て来たんだ。
で、ユランさん達5人となぜか俺を連れて、師匠が王様に面会しにお城を訪ねたところ、さほど待たされることもなくこの部屋に通されて、このお三方とご対めーん、となったってワケ。
「それがしも問題はないと思いますが、実際のところ、この姿になっても戦士としての腕前は落ちておらぬのですかな? “中身”がユラン殿や配下の方であるにせよ、体重や重心、あるいは耐久、スタミナなどはやはり変化しておりましょう」
ためつすがめつ品定めするような目つきで5人を見るテーバイ様。
いや、“するような”じゃなくて、本気で“腕試しさせろ”って言ってる目だ。
剣の軍団の長らしく、剣士としてはこの国で1、2を争う(ちなみに頂点を争ってるのは隣にいる国王様だ)腕前のテーバイ様だけど、ちょっとばかし
と言っても、別段、敵と対峙するたんびにバーサークしたり、夜な夜な辻斬りしたり、戦場で特攻したりするのが
──指揮官職の人がそれでいいのか、って気もしないではないけど。
「ふむ。道理っちゃあ、道理だな。そのあたりは、どうなんだ、ユラン?」
師匠がポムッと手を打つ……って、考えてなかったんですか!?
「いや、一応、できる限り身体能力に影響がないように術式組む時は配慮したぞ。ただ、いざそれで変化した姿が、コレだったからなぁ」
しみじみと言いながら、微妙にゲンナリしたような視線を背後に向ける師匠。
つられて、俺も改めてユランさんたちの姿を見る。
「いやぁ、そう言われやしても、あっしもこの姿になってからは“慣らし”程度の動きしかしてやせんからねぇ」
蜂蜜色の髪を頭頂部の少し後ろでくくったポニーテイルにした翡翠色の瞳の美女というか美少女と言うべきか微妙な年代の女性に見えるのが、ご存じユランさん。
うん、確かに(女性として)プロポーション抜群だから、その分、胸とか腰の重さのバランスが、竜牙兵時代とは随分変わってそうだな。
「わたくしは特に問題ありませんわ。此方まで来る際に携行した両手持ち戦槌モールは、いつもと同じように扱えましたし」
どこぞの爆発メイジの如き鮮やかなピンク色の髪を長く伸ばし、もみあげを縦巻きロールにした、いかにもお嬢様っぽい外見の女性が、「ファング&トゥース」の副長を務めるエルシアさん。
いや、確かに貴方、竜牙兵のなかでいちばんの怪力でしたけど、さすがに戦いの場で動けば、その立派なお胸が邪魔になるのではないかと小生愚考する次第。
「あれれ~、シューくん、なんかエルしーに向ける目線がエッチだよ~、もうっ、男の子ってばしょうがないなぁ」
ちょ、ちが、そういうつもりじゃないって!
「ふ……ペリオよ。あまり目くじら立ててやるな。ヒューマンの男、それもシュートのような年代の青少年なら、女の形をしていれば木の又を見ても欲情するものらしいからな」
熱い風評被害!? 俺、そこまでサルじゃないですからね!
──最初に問題発言した、栗色の髪を両耳の上でお団子にした15、6歳くらいの可愛らしい女の子(に見えるの)が、ペリオノールさん(……さん? なんか、この外見だと違和感あるな)。竜牙兵の頃は、気配を殺して接近し、双剣&手裏剣で素早く敵を倒す、いかにも“隠密”って感じの人(?)だったのに、人化した今はまるで正反対の明るい(というかやかましい)雰囲気を振りまいている。
で、彼女をたしなめてくれたはずなのに、かえって俺のイメージがヒドくなる発言をした方が、
ふたりとも竜牙兵時代はしゃべれなかったからよくわからなかったけど、こんな性格してたのか……。
「あの……トゥニアお姉ちゃんもペリオお姉ちゃんも、落ち着いて。シュートさんが困ってるよ」
おずおずと“姉”たちをなだめてくれているのが、ベロッサさん(ちゃん?)。ラベンダー色に近い紫の髪をショートボブにした、パッと見は中学生くらいのおとなしそうな女の子にしか見えない。昨日、アラド山脈に同行した時にも見事な腕前を見せてくれた通り、
5人とも、師匠が猛ピッチで縫い上げた(この人、防具作りのために覚えたとかで裁縫関連も得意なんだよ)、簡素ながらも上品な印象の白い袖無しワンピースと、黒いレザージャケット(こっちはありものの流用らしい)という、少々アンバランスな格好をしている。
クトゥニアさんやペリオノールさんも、ユランさんやエルシアさん程ではないにせよ、それなりに女らしい体つきをしているし、重心とかバランスは変わってるんじゃないかなぁ。
ベロッサさんは……うん、まぁ、発展途上ってことで、頑張れキミには未来があるさ!
(あれ、そういや、この姿になったユランさん達って、歳とったり成長するのか?)
などと、俺がどうでもいいコトに頭を悩ませているうちに、どうやら代表でユランさんとエルシアさんが、テーバイ様と城の外郭地下にある修練場で、手合わせすることに決まったみたいだ。
「ま、こうなりそうな気はしてたがな。だから、お前さんも連れてきたんだが」
師匠がポンッと俺の肩に手を置く。
「真剣勝負ではない練習試合とは言え、この国が誇る最高クラスの剣士の戦いを間近で見ることは、お前さんにとっても何か得るものがあるだろうさ」
師匠、そこまで俺のことを考えて……。
俺がジーンと感動に浸っているところに、国王様からのツッコミが飛んできた。
「ひんつけんな。ヌシは、騒がしい女子連中に弄られる
え!
し、師匠、どうして凄い勢いで明後日の方向に視線を逸らすんですか!?
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