◇その3
【Akira's View】
サクサクと踏みしめる浜の砂は、白に近い褐色で、格別に細かかったり、星の砂のように特異な形をしてたりはしない。踏み込んだ感触も、それなりの深さで足が埋まるが、流砂みたくそれ以上沈んだりもしない。
要は、日本の海水浴場あたりで見慣れたごくふっつーの砂地だ。
海の色も赤だったり緑だったりせず、こちらもごく普通に青……いや、青っていうか透明度の高い綺麗な水の色なんだけどな。
水の中には普通に魚が泳いでいるのが陸からも見えるし、掌サイズの小さめのカニが水辺をうろうろしてたりするし、正直、ここが異世界だと感じさせるような風景は一向に見当たらない。
「……って、そうだ。万家さんに言われてたっけ」
浜辺探索の途中で立ち止まり、周囲を見渡して人影やら獣影やら魔物影やらが見えないことを確認してから、軽く目をつぶり、小さな声で「ステータス、表示」と呟いてみる。
傍から見ていれば、中二病まっただなかの“患者”と誤解されそうだが、俺自身はそれどころじゃなかった。
閉じた瞼の裏の黒っぽい部分に、HMDヘッドマウントディスプレイでも装着したかのようにテキストメッセージが浮かび上がっていたからだ。
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■笹森(ささもり) 明(あきら)
ヒューマン(外来人) 18歳 男 レベル4
称号:なし
所属:なし
職種:なし(一般人)
[能力表示]
筋力14 耐久13 敏捷14 器用15
知力12 精神12 集中11 運用14
生命力41(41) 魔力量37(37) スタミナ25(25)
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(半信半疑だったけど、マジか~)
この「ステータス表示」は、アールハインの神様によって固有権能(ギフト)を与えられた人なら誰でも持ってる、いわば“漏れなくついてるオマケの固有権能”とでも言うべき代物らしい。
コレを使えば、ご覧の通りRPGっぽく自分の能力値その他を確認できるのだ。
全員が持ってるからわざわざ固有権能とカウントされないほどしょっぱい代物だ……って万家さんは笑ってた。
実際、ちゃんとした固有権能として“識別(アイデンティファイ)”やその上位の“分析(アナライズ)”というモノもあって、それを使えば、他人や敵、物品なんかの詳細を知ることができるんだとか。固有権能でなくても、“分析”の劣化版ともいえる【鑑定(アプレイズ)】なんて魔術もあるらしいし。
(「ステータス表示は自分しか対象にできないし、わかる内容も限られてるからね」って、万家さんは苦笑してたっけ)
とは言え、自分の客観的な能力評価や成長の軌跡がわかると言う意味では、それなりに有用だから、落ち着いたら、まずは使っておけとも言われてたんだよな。
もっともな話だと思うし、今はさし迫った危険もなさそうだから、ちょっと確認しとこう。
名前とか年齢性別なんかは自明だからいいとして……。“称号”ってのには王様やら公的機関から正式に授与された名誉称号のほかに、多くの人から呼ばれる通り名なんかも含まれるらしい。
“所属”は、ギルドなんかの組織や所属することに加えて、どこかの店に正式に雇用されたり、町や村に定住することでも表示が変わるんだとか。日本風に例を挙げるなら、「東京都在住・吾妻高校陸上部・塔和レコードアルバイト店員」とかになるんだろう。
“職種”は、「剣士」とか「魔術師」とか「盗賊」とかのロープレにありがちな意味での“職業”だな。ひとつだけじゃなく「戦士・僧侶」みたく複数選ぶことも可能らしい──まぁ、今の俺は“
で、問題は“能力表示”とやらの方だ。
“筋力”、“耐久”、“敏捷”、“器用”なんかはそのまんま一般的な意味とほぼ同じだ。英語に直せばstrength/endurance/agility/accuracyといったところか。ちなみに、一般的な成人男子の平均が10、魔法や薬物などで強化しないヒューマンの限界が18という目安らしい……『Wiz』かよ。
“知力”は頭の良さ、“精神”は精神力・意思の強さで、こちらも比較的わかりやすいが、“集中”は単に集中力というだけでなく、「魔力をどれだけ精密に操作できるか」という部分も含まれるらしい。そして“運用”というのは少し特殊で「一度にどれだけ大きな魔力を動かせるか」を意味する。数値の比較は肉体的なものと同様だ(ただ“運用”だけは魔法が使えない人は1で固定らしい)。
とりあえず俺はどの能力も平均は上回ってるみたいだ。もっとも“知力”とか“精神”は12だからせいぜい中の上ってところかね。“器用”が15でかなり高めなのは、趣味が関係してるのかも。“筋力”と“敏捷”もそれなりなのは元陸上部だからだろうと予測できる。“運用”が高めな理由はよくわからんけど。
生命力はゲームで言うHP、魔力量はMPに相当。スタミナも字義通りで、走ったり苦しいのを我慢したりする時に消耗して、休息すれば回復するんだとか。
で、最初の方にある“レベル”は“総合的な戦闘能力”を表している。1~3が戦いと無縁な凡人、4~6だとちょっとケンカ慣れしてるチンピラとか普通の獣を狩る狩人とか新米兵士クラス。レベル7からが戦いに関する専門家(プロ)と呼べる水準らしいけど……。
俺はレベル4、チンピラ級か。うん☆知ってた。そんなモンだよな。
微妙にしょっぱい水準であることを突き付けられてちょっと凹むけど、まぁ、ある意味わかってたことでもある。中学以降ロクにケンカとかもしたことないパンピーだしね。
そして、「ステータス表示」はコレだけじゃない。万家さんいわく、むしろコレは“本命”のオマケなんだとか。
俺が視界の右下に表示された矢印に意識を集中させると表示が切り替わった。
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[習得技能]
・野外生存術:初級
野外活動をするためのごく初歩的な知識と技術を持っている。
・槍投げ術:初級
手にした槍を目標に向かって投げる技能。初級なら、人間程度の大きさの静止目標に対し20メートル以内の距離なら90%の確率で命中させられる。この技能は本来「槍術」の派生スキルであり、「槍術」の習得にプラス補整がつく。
・ランニング
短距離走と長距離走の能力を総合的に高める技能。ただし、どちらかに特化した技能よりはやや劣る。「ダッシュ」、「持久走」、「逃走」などの技能の習得にプラス補整がつく。
・木工細工:初級
木材を加工して、生活用品や武具・玩具の類いが作成できる。初級ではかろうじて実用に耐えるが、売り物にできるほどではない。他の細工系技能の習得にプラス補整がつく
[固有権能]
・環境適応
アールハインの一般的な大気、水、細菌、食物などの環境に適応した身体を持つ
・言語理解:初級 (グラジオン)
グラジオン大陸における共通語による会話および読み書きができる。
・身体能力底上げ:中級
4つの身体能力を最低15まで引き上げる。15以上のものについては変化なし。
(※能力表示には反映されない)
・利便魔法習得:初級
アールハインで標準的な魔法のうち、利便系魔術を習得している。初級なら、【点火】【灯明】【結露】【清浄】【送風】【脱臭】【耕地】【足場】を使用可能。
*無限之竹林(アンリミテッドバンブーズ):Lv1
魔力を消費することで、何もないところから竹を生やせる。また、このギフトは熟練度に応じて成長する。Lv1では、魔力1を消費し、土の露出した地面1メートル四方に1分間精神を集中することで10本のタケノコを生やし、さらに魔力を1注ぐことでおよそ1分で成長した竹になる。
また、これによって生み出される竹の質・種類も熟練に従い増加する。Lv1なら普通の真竹のみ。
ちなみに、一度生み出した竹は普通の植物同様に根付き成長する(ただし成育に適さない環境だと、そのまま枯れ落ちる)。
*万能竹細工(マルチバンブーワークス):Lv1
竹水筒、竹皿、竹竿、竹箒、竹槍のような簡単なものから、竹籠、竹ざる、竹縁台、竹刀のようなやや高度なもの、さらに家具や武器防具、果ては建築物に至るまで、竹を素材にしてできるものなら何でも作れるようになる能力。ただし、あくまで自分の手で「作る」能力なので、相応の素材(竹)とある程度の道具類と時間は必要。また、いきなり高度なものを作るのは無理で、ある程度熟練度を上げる必要がある。Lv1なら日本の標準的な店で売っている程度の簡単な食器や日用品、竹槍などが作れる。
また、タケノコ料理を調理する際にいくらかプラスの補整が加わる。
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そう、“2ページ目”には自分が習得している“技能”と“固有権能”の一覧が表示されるのだ!
これは地味に有り難い。特に固有権能の方は詳細や注意点も記されているし。
というか、元々このステータス表示自体が「固有権能に対する簡易マニュアル」として付加された代物で、能力値だの技能だのがわかるのは、むしろ比較のための副産物らしい。確かに“魔力1を消費”とか言われても、自分の魔力量がどれだけあるかわからないと無意味だしなぁ。
“ランニング”と“槍投げ術”は陸上部の槍投げ選手やってたから持ってる技能スキルなんだろう。“野外生存術”は裏山に出入りしたりハイキングとかにもよく行ってたからか。
ちなみに、*印がついた下のふたつ“無限之竹林”と“万能竹細工”が、俺がジオラさんこと女神グラジオラ様に希望した固有権能なんだけど……。
なんでこんな厨二病クサい漢字名と
『ふふふ、お約束ですから♪』
──なんか、楽しそうな女性の声が聴こえてきたような気がするけど、きっと気のせいということにしておこう、うん。
あれ、そう言えば下向きの矢印があるということは“3ページ目”もあるのかな?
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[習得魔法詳細]
【点火(イグナイト)】消費魔力:1
地球のマッチの火と同程度の大きさ・温度の火種を生み出し、自分の身体から1メートル以内にある可燃物に火を点けることが可能。持続時間は約5秒。
【灯明(トーチ)】消費魔力:2
2時間程度持続し、1メートルの距離で100ルクス程度の照度がある光の球を生み出す。術者が自分の手が届く範囲の任意の場所に設置できるが、術者の動きに追随させることも可能。光球の温度は40~50度程度。
【結露(コンデンス)】消費魔力:2
大気中の水分を凝結させ、300ミリリットル程度の飲用に適した水を生み出す。視界内に器があれば、その中に作ることが可能だが、特に器を指定しないと術者の頭上に生まれて頭からかぶることになる。砂漠などの大気が乾いた環境では、一度に生み出せる水量が減少することもある。
【清浄(クリンナップ)】消費魔力:1
術者自身もしくは視界内にある物を対象に、蒸気洗浄に近い要領で対象の表面から汚れを落とす(使用時の温度は30度程度)。人ひとりに使用すれば、全裸なら体の汗や老廃物なども落とせる。着衣状態なら着ている服の方が綺麗になる。非生物を対象にすることも可能だが、その大きさによって汚れの落ち具合が異なる(小さな物ならより綺麗に、大きな物ほど汚れが落ちない)。
【送風(ブロウ)】消費魔力:2
うちわで強めに扇いだくらいの風を10分程度持続的に生み出す。風の起点と方向は術者が任意で決められるが、起点は術者の1メートル以内に限られる。
【脱臭(デオドライズ)】消費魔力:1
対象から匂いを消し去ることができる。完全無臭状態は1時間ほど持続し、その後1時間程度かけて徐々に元の状態に戻る。基本的には人ひとり程度の大きさが対象で、それより大きな物にかけると持続時間が短くなる。
【耕地(プラウ)】消費魔力:1
踏み固められた土の地面(岩盤や舗装路などは不可)を、作物の種を蒔くのに適した柔らかさに“耕す”。耕す範囲は、術者を起点として1方向に、幅30センチ、長さ3メートル、深さ15センチほど(範囲を大きくはできないが、小さくすることは可能)。
【足場(トレッド)】消費魔力:2
泥濘や砂地などを対象に、軽快な歩行が可能な程度に地表を固める。固める範囲は術者を起点として1方向に、幅50センチ、長さ3メートルほど。効果時間は30分程度で、効果時間が切れると徐々に元の状態に戻り始める。降りたての柔らかな雪原などにも使用可能だが、その場合消費魔力が増える。
─────────────────────────
こちらは魔法の解説か。うん、助かる。助かるんだけど……はぁ、やっぱしショボいな。
いや、サバイバルライフなりスローライフなりを送る上では、どれもそれなり以上に役立つだろうことは理解してるんだけど、ゲームとかでイメージする魔法って、やっぱり攻撃とか回復とかが主流だしなぁ。
とは言え、無いものねだりしても仕方ない。むしろ、魔法学校行ったり、魔法使いの師匠に教わったりしたわけでもないのに、いきなり10個も魔術が使えることを今は素直に喜ぼう。
さて、万家さんに言われてた通りステータス表示の確認もしたし、この島(?)の探索の続きに取り掛かるかな。
(待てよ……何がいるかわからない以上、念のために“武器”は持っておくべきだよな、うん)
自分にそう言い訳しつつ、早速さっき確認した固有権能のうちのひとつを使ってみる。
「いくぜ、“
いや、別に叫ぶ必要はないんだけど、そこはそれ、さっきの“声”じゃないけど“お約束”だろうし。
気合を入れて両手を目の前の砂地に向けて突き出し、体内に感じられる魔力(?)らしきモノを地面に送り込む。
「うわっ、マジで生えてきた!」
ニョキニョキッてな擬音が聞こえてきそうな勢いで、タケノコが10本、密集状態で波打ち際の砂地から顔を出している。
「で、このまま魔力を注げばいいんだっけか」
ミシミシとこちらは本当に音をたてながら、タケノコがみるみるうちに伸びて緑が濃くなり、枝や葉も生え、ジャスト1分で高さ3メートル半、太さ直径5センチほどの立派な竹に成長する。
確か真竹って10メートル以上に成長することもあるらしいから、これはまだ小ぶりな方なんだろうけど、それでもたった1分でこんなに大きくなるなんて……質量保存その他の物理法則にケンカ売ってるよなぁ。まぁ、魔法の実在する世界でソレを言っても仕方ないんだろうけど。
手にしたナタを使って、できた竹を根元近くで切り倒す。ホームセンターで買った4000円ちょいの安物(一応、竹割用だけど)なのに、エラくよく切れる気がするのは、やっぱ“万能竹細工”の固有権能が影響してるのかね。
もっとも即座に刃物を買い替えられる状況でもない以上、むしろ好都合だ。
とりあえず、切り倒した竹の一本から枝葉を落とし、手ごろな太さのところを2メートルほどの長さに切って、さらにその片端を斜めに切り落として突き刺さりやすくする。
落としたばかりの竹の葉……は、まだ青々として燃えにくいので、手近な林から比較的乾いた枯草や葉っぱを拾って来て100円ライターとティッシュで火を付けて小さめの焚火にする。
「あ、しまった。せっかくだから【点火】の魔法を試せばよかったかも」
ちょっと残念に思いつつも、焚火の先で竹の両端部を炙って、より硬化させれば、一応完成だ。
「じゃ~~ん、たーけーやーりー……って、そのままじゃんか!」
右手で持って目の前に掲げつつ、自分で自分にツッコむ。
「まぁ、こんなんでも無いよりはマシだろ。熟練者ならB-29も気合で落とせる……ってのは流石にデマらしいけど」
海水で焚火を消し、残りの竹は日陰にまとめて置いて乾燥させておく。
「さて、ではでは探検の続きを再開しますか」
竹槍を担いでるせいで探検家というよりベ●コンのゲリラ兵と言ったほうが近いような気もするけど、そこはスルーして、俺は再び海沿いに歩き始めた。
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